腐敗した独裁者たちの共通点は不正腐敗で蓄積したカネをスイス銀行の秘密口座に隠しておくことだ。独裁者たちは、権力を維持するための統治資金や権力を失ったときに備えて裏金を貯めておく。フィリピンのフェルディナンド・マルコス元大統領は後に、スイス銀行の秘密口座に6億2400万ドルを隠していたことが明るみになった。戦犯裁判中に死亡したスロボダン・ミロシェビッチ元ユーゴ大統領も330万ドルをスイスの秘密口座に入れていたことが明らかになった。
◆北朝鮮は金正日(キム・ジョンイル)総書記の統治資金を専門的に管理する組織である朝鮮労働党33号室と39号室を昨年、39号室に統合した。統治資金はミサイルなどの兵器や麻薬・偽ドルの取引、各種の外貨獲得事業で作られる。このカネは、金総書記が独裁権力を維持するため、側近たちに最高級乗用車やロレックスの時計などの贈り物を買ってあげたり、自分の一族の超豪華生活を維持するのに使われる。金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政府は、北朝鮮に首脳会談の見返りとして渡した4億5000万ドルを含め、約70億ドルを提供したが、そのうちの30億ドルが現金だった。相当の金額が統治資金として使われたはずだ。
◆金総書記がスイス銀行に隠しておいた裏金40億ドル(約4兆5388億ウォン)の大半が、ルクセンブルクの銀行に移されたと、英紙テレグラフが報じた。世界的な金融危機後にスイス政府が資金洗浄の規制を強化したことを受けて、北朝鮮が措置を取ったという。金正日裏金40億ドル隠とく説は、06年、米国による対北朝鮮金融制裁のときに初めて浮かび上がった。北朝鮮は当時、「荒唐無稽」として反発した。米国がマカオのバンコ・デル・アジア(BDA)から見つけた2400万ドルを凍結させたとき、北朝鮮が戦々恐々としていたのも、それが金正日資金だったからだろう。
◆今年1月、金総書記は「白米と肉のスープ」を約束した金日成(キム・イルソン)の遺訓を実践することができなかったとして、「最短期間で人民の生活問題を解決する」とした。裏金40億ドルから10分の1の4万ドルを放出するだけでも、今年不足しているコメ100トンを買ってなお余る金額だ。これだけの金額なら人民の白米と肉のスープの問題も相当期間解決できる。人民が飢えて不満が高まれば、膨大な裏金を積んでおいたとしても老後が保障されるとは限らない。
権順澤(クォン・スンテク)論説委員 maypole@donga.com