脱北者の北朝鮮への送還に反対するデモに参加した車仁杓(チャ・インピョ)氏を「選挙シーズンに保守派の票を結集させる『概念』(分別や良識、常識を意味する俗語)を欠いた芸能人」と酷評する人たちもいる。だが、車氏の「概念」は、保守や進歩を離れてヒューマニズムに基づいている。2006年、救護団体に背中を押されてインドを訪問したとき、彼は飛行機の一等席に乗っておごり高ぶっていたという。しかし、そこの貧民村に住む7才の子どもが手を差し伸べて握手を求めた瞬間、人生の価値観が変わり、世界の貧しい人たちのを助けたいと決心したという。その後、彼の旅先は、米国や豪州から、エチオピア、バアングラデッシュ、ウガンダに変わった。彼を「概念俳優」として注目させているのは、一貫した真剣さである。
◆2006年、ハリウッドのスター、ジョージ・クルーニは、ドキュメンタリー撮影のためスーダンを訪ねたときから、ダルフルの虐殺を世界に知らせる活動に乗り出した。主要国の首脳に書簡を送り、スーダンの分離独立の必要性を訴え、ブラッド・ピットら同僚の俳優たちと基金を集めた。衛星で集団埋葬地を探し出し、スーダン政府軍による民間人虐殺を証言した。クルーニの一貫した気持ちは、昨年、南スーダン共和国の誕生という実を結んだ。
◆中国下請工場に対するアップルの搾取を告発した1人芝居で有名になった俳優のマイク・デイジーは、昨年1月、ラジオに出演し、自身が目撃したとして化学薬品に中毒した労働者の惨状を証言した。「概念俳優」を名乗ったが、デイジーの暴露は、殆どがウソと噂であることが判明した。だが、氏は「私はジャーナリストじゃなく俳優だ。事実とフィクションを交えてストーリを作る。私の話は、相対的真実を追求する」と粘った。メディアの真実報道で、アップルに抗議する署名運動に参加した人たちが反発すると、暴露9日目の25日に、自身のブログに謝罪文を発表した。
◆米国産牛肉の輸入、韓進(ハンジン)重工業事態、韓米自由貿易協定(FTA)、済州(チェジュ)道海軍基地などの社会問題に声を出す芸能人たちもいる。芸能人も社会問題に賛否の意見を出せる。しかし、事実の前では謙虚にならなければならない。事実は神聖で意見は自由だとも言われる。米国産牛乳のBSE(牛海綿状脳症)感染牛を食べるなら青酸カリを飲み込むと言っていた芸能人は、今はどう思っているのか気になる。デイジの謝罪文には、こんなくだりがある。「世間が私の話に耳を傾けてほしいという気持ちに囚われたあまり、真実でないことが私の口から出てきた」。
李亨三(イ・ヒョンサム)論説委員 hans@donga.com