人間の視力は、哺乳類の中でも大変優れている方だ。よい視力の3大要素は、立体視、3色型色覚、中心窩だ。牛やねずみ、犬などとは違って、類人猿の顔は平べったく、二つの目は共に、前方に向かっている。そうなれば、二つの目がなす視野は180度未満へと狭まるが、両目の視界が重なるところの物の距離を正確に測定することができる。それが立体視だ。霊長類の昔の祖先は、当初は、緑色と青色の2つの色覚細胞のみ持っていた。しかし、3300万年前に赤色を感じる色覚細胞が追加され、3色型色覚になり、熟した木の実や未熟で柔らかい新芽をうまく弁えるようになった。
◆特に重要なのは、中心窩(黃斑)だ。我々の視細胞は、網膜全体にくまなく散らばっているのではなく、中心窩にぎっしりと詰まっている。そのため、我々が物をはっきり見られる角度は、わずか5.2度弱だ。カメラのフィルムとは完全に異なる。何かしっかり見たいものがあれば、目を回し、中心窩に焦点が当たるようにしなければならない。類人猿の目は、眼球房の中にある。大半の哺乳類は、頭蓋骨の目の穴が脳に繋がっているが、類人猿は、目の穴の後ろが方が丸くふさがっており、眼球房ができている。これも同様に目玉を固定させ、中心窩がぶれないようにさせる進化的装置だ。
◆貨物トラックの運転手が走行中、DMB(日本のワンセグ)テレビを見ていて、おぞましい大型事故を起こした。道路交通法は、車の運転手に前方注視を義務付けている。注視とは、「あるターゲットを物欲しげに見る」という意味だ。人の目の中心窩は一つだけで、2つの物を同時によく見るのは不可能だ。DMBの方にわき見をすれば、前方注視はできなくなる。走行方向にDMBを設置し視聴するのはどうか。それもいけない。我々の眼の立体視機能のため、近くのDMB画面を見れば、遠くにあるのは、網膜にきちんと像が結ばれない。
◆昨年、前方注視の怠りによって発生した交通事故は、計14万件で、全体交通事故の63%に上る。国土海洋部の調査によると、運転手の93%が、「DMBを見ながらの運転は危険だ」としながらも、33%は、「運転のときはたまに、または、頻繁にDMBを見ている」と回答した。とんでもない話だ。一定のスピード以上で走行すれば、運転手向けDMBは、自動に消えるように制作する必要がある。法で義務付け、違反すれば処罰しなければならない。
虚承虎(ホ・スンホ)論説委員 tigera@donga.com