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[オピニオン]「誤った信念」の奴隷

Posted November. 05, 2012 09:09,   

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米有力週刊誌ニューズウィークが先月、カバーストーリーでリンカーン大統領を扱った。ニューズウィークは、「大統領候補は妥協と駆け引きの達人であるリンカーンに学ばなければならない」とし、「リンカーンは、米国が輩出した最も気転のきいた職業政治家の一人だった」と紹介した。記事によると、リンカーンは政治ゲームと工作の大家であり、彼の業績も巧みな政治術数の結果だった。奴隷制を廃止する改憲を推進するために、「政府の要職を与える」と政敵を買収したり、奴隷所有者の下院議員に密かに特恵を約束した。

◆サディアス・スティーヴンス下院議員はこれに対して、「19世紀の最も偉大な法案は、米国で最も純粋な男の腐敗で通過した」と寸評した。その後、リンカーンのイメージは、政治とは程遠い理想主義者、闘士で彩られた。今年の夏、韓国でも上映されたハリウッド映画「エイブラハム・リンカーン:ヴァンパイア・ハンター」では、大統領であるリンカーンが斧を持って奴隷所有者と戦う。この映画で、奴隷所有者と南軍の一部は、吸血鬼のような人ではなく実際に吸血鬼として、駆け引きと妥協の対象になれない存在だ。

◆この映画に出てくる吸血鬼は、人とコミュニケーションが可能で、苦痛を感じ、感情がある。そのため、リンカーンの振るう斧で吸血鬼が死んだり、映画のクライマックスで北軍が吸血鬼に対して大勝する姿は、虐殺とも見える。夏用のアクション映画には、高潔なヒーローと殺してもかまわない絶対悪が必要で、この映画ではそれをリンカーンと南軍が引き受けたわけだ。奴隷を解放させるからと、感情がある知的な存在に迷うことなく斧を振り回す映画の中のリンカーンは、吸血鬼から「信念の奴隷」と嘲られる。

◆大統領選挙戦が真っ最中の韓国でも、「信念の奴隷」を見つけることができる。公党の大統領候補が候補受諾演説で他党を「巨悪」と規定し、「韓国政治から追い出そう」と言う。インターネット空間の書き込みには、対話や妥協の意志が見られない。自分と意見が異なる人々を斧で打ち破らなければならない吸血鬼と考えるようだ。信念は必要だが、その奴隷ではなく主人にならなければならない。省察と反省を受け入れない信念は我執にすぎない。歴史における悲劇は、たいてい信念が足りないことから生まれるのではなく、誤った信念から始まる。

張康明(チャン・カンミョン)産業部記者 tesomiom@donga.com