ソウル九老区(クログ)で非鉄金属流通会社を経営しているキム某氏(62)は昨年から、健康状態が急激に悪化した。キム氏は最近、家族会議を開いて会社を長男に継がせることにした。1980年に起業し、昼夜を問わず働いて育ててきた会社だ。キム氏は、「会社が無くなれば、従業員らも仕事を失うことになる」とし、「青春を捧げた会社が、引継ぎを経ながら成長していくことを願う」と話した。
中小企業の創業1世代の引退が本格化し、家業引継ぎが話題となっている。家業引継ぎは、創業主の経営ノウハウや技術力が保存され、雇用も保たれるのが強み。金融投資業界も我先に、家業引継ぎに向けたコンサルティングサービスを提供している。
●中小企業主の87%が家業引継ぎを希望
中小企業研究院によると、中小企業の87.1%が、家業引継ぎを希望している。家業を引き継がせる理由としては、技術や経営ノウハウの維持、会社への愛着などを取り上げている。
専門家らは中小企業の場合、家族が会社を引き継がなければ、空中分解する確率が高いと見ている。ソウル女子大学のイ・ソンボン教授(経営学科)は、「会社の存続のためには、新しい経営者が現れなければならないが、外部から能力のある中小企業経営者を見つけるのは現実的に難しい」とし、「創業主の経営哲学やノウハウを伝えるにも家族が有利だ」と話した。
家業引継ぎをめぐり、一部からは、「富の親譲り」だと批判する声が高まっているが、中小企業が中堅企業や大手企業への成長できる足がかりになるという見方も多い。創業主が開発した技術が、引継ぎを繰り返すことで発展し、国家技術力の向上に役立つという。
専門家らは1902年に起業した日本の「吳竹」を代表的事例として取り上げている。墨や筆のメーカーから始まった同社は、墨の製造技術を活用してさまざまな発光塗料などを製作した後、年間売り上げ700億ウォン規模の会社へと成長した。
雇用維持も代表的な家業引継ぎの好作用として取り上げられている。中小企業研究院のシン・サンチョル研究員は、「会社が消えないのは、雇用が保たれることを意味する」とし、「家業引継ぎを通じた雇用効果は、創業の2.5倍レベルに上る」と主張した。国内雇用市場で中小企業が占める割合は87.7%に上る。
●家業引継ぎをめぐるコンサルティングが急増
家業引継ぎを希望するニーズは多いが、実際に家業引継ぎを進めている中小企業はなかなか目にできない。中小企業中央会が11年、全国中小企業の最高経営者314人を対象に行った家業引継ぎの現状によると、全体回答者の25.5%だけが実際の家業引継ぎのために準備していることが分かった。
家業引継ぎのためには、複雑な税務問題を解決しなければならず、あらかじめ後継者を育成しなければならない。中小企業研究院の調査によると、創業主の66%が租税負担を、25%が後継者力量の不確実性を、家業引継ぎのネックとして取り上げている。
政府は07年、「中小企業振興に関する法律」を見直し、中小企業の家業引継ぎを支援する法的根拠を作った。しかし、その内容が複雑で、多くの創業主が家業引継ぎを諦めることもある。国内には設立から200年以上の長寿企業がまったく無く、日本(3146社)、ドイツ(837社)、オランダ(222社)とは対照的だ。
税務法人・タソルのチェ・ヨンジュン税理士は、「家業引継ぎ関連の税法が設けられていても、複雑すぎる上、要件がややこしく、一般中小企業のオーナーらが従うには無理がある」と主張した。
金融投資業界では昨年から、さまざまな家業引継ぎコンサルティングサービスを披露している。ハナ銀行や韓国投資証券、三星(サムスン)証券、ウリ投資証券などが代表的だ。彼らは税務問題から後継者育成にいたるまで、家業引継ぎの全ての過程についてコンサルティングを行っている。
ハナ銀行信託部のべ・ジョンシク・チーム長は、「年明けから家業引継ぎ関連相談件数が、2倍へと増えている」とし、「会社引継ぎと共に、子供に創業主の資産を配分するサービスも行っている」と話した。
家業引継ぎが雇用維持などの前向きな効果へとつながるよう、監視監督や教育体系を強化すべきだという主張もある。崇實(スンシル)大学の鄭大用(チョン・デヨン)教授(ベンチャー中小企業学科)は、「イタリアやドイツは後継者が経営能力を身につけることができるよう、政府レベルで教育プログラムを提供している」とし、「家業引継ぎの純機能が蘇ってこそ、富の親譲りという批判が下火になるだろう」と強調した。
balgun@donga.com