軍入隊後、新兵訓練所での最も慣れない経験は、20年以上呼ばれた名前を失うことだった。すべての新兵は「56番訓練兵」のように一連の番号で呼ばれる。名前ではなく番号で呼ばれるため、社会とつながれていた糸が切れたような虚しさを感じる。一般人でもそうなのだから、国民の支持によって生きる政治家に無名と無官の苦痛は耐え難い。彼らが人事や選挙のシーズンになると、「自分の訃告を除いて、新聞に名前が載ることは無条件にいい」と言うことが理解できる。名前と呼称は政治家にとって存在の意味だ。
◆1950、60年、代政治家たちは雅号で呼ばれた。雩南(ウナム)李承晩(イ・スンマン)、白凡(ペクポム)金九(キム・グ)、海公(ヘゴン)申翼熙(シン・イクヒ)、維石(ユソク)趙炳玉(チョ・ビョンオク)、竹山(チュクサン)鉠奉巌(チョ・ボンアム)…。「李博士」「鉠博士」のように、当時あまり多くない「博士」をつけて存在感を表現したりもした。権威主義政権時代の1970年代には、英文の名前の略字を利用した「イニシャル呼称」が登場した。「HR(李厚洛元中央情報部長)」、「JP(金鍾泌元首相)」のように共和党の実力者が英文の略字で呼ばれ、秘められた臭いを漂わせた。朴正熙(パク・チョンヒ)大統領も、大統領府内外で「プレジデント・パク」を意味する「PP」と呼ばれた。「3金時代」以後、「YS(金泳三元大統領)」、「DJ(金大中元大統領)」、「MB(李明博前大統領)」のように大統領の呼称が固まった。DJは「後広」、YSは「巨山」という雅号があったが、メディアが英語のイニシャルを好んだため、最近あまり耳にしない。
◆米国でも大統領を「JFK(ジョン・エフ・ケネディ)」のようにイニシャルで呼ぶが、韓国のように一般的でない。むしろ口にしたくないタブーや秘密の時にイニシャルを使う。警護や儀式で大統領をコードネームで呼ぶこともある。韓国社会でイニシャルの呼び名が生まれたということは、大きくても小さくても権府の中核に入ったという信号だ。大統領選挙を狙う一部の重鎮議員が自分のイニシャルを使うようメディアに注文する理由だ。
◆朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が、自分に対する呼称を英文のイニシャルの「GH」や「PP(President Park)」ではなく「朴大統領」にしてほしいと注文した。大統領になる前はこのような要求をしたことはないが、突然英語のイニシャルが嫌だと言った理由が気になる。DJ、YS、MBが英語のイニシャルにコメントした記憶はない。呼称や略称は国民とメディアがつくるものだ。大統領が関与することではない。大統領が注文したからと言って1日で変わるわけでもない。「GH」を「great harmony」と読んだりもする。朴大統領が国民から愛されれば、イニシャルが持つイメージも良くなるだろう。
朴湧(パク・ヨン)論説委員 parky@donga.com