欧州連合(EU)委員会本部があるベルギー・ブリュッセルのペルレモン・ビルでは、毎日正午、記者会見が開かれる。普通、英語とフランス語で同時通訳されるが、先月29日はギリシャ語まで12ヵ国の言語が登場した。
「構造改革と健全な財政が健全な経済の根本だ。今行動してこそ、欧州が危機から抜け出し強くなれる」。EU委員会のバローゾ委員長の「危機克服に向けた各国家への勧告」の発表が終わるとある記者が手を上げた。「EU委員会がドイツ紙とのインタビューで、フランスは改革の準備が0%だと言ったが、どう考えるか」。
バローゾ委員長は、「コメントに対してはコメントしないのが私の方針だ」とはぐらかすように言ったが、「ただ、フランスについては…」と待っていましたかのように、「財政赤字3%内の原則を2年猶予した代わりに、公共支出と労働コストを削って競争力を回復しなければならない」と詳しく説明した。
4分間の長い返答が終わると、別の記者が「フランスの放送のために今の話をフランス語で言ってほしい」と要請した。会見場に笑いが起きた。バローゾ委員長は「喜んで」と同じ話しを繰り返した。会見時間の半分をフランスが取ったため、他国はこの話題を避けることができた。
「欧州の新たな患者」とされるフランスの最近の失業率は、1996年以来最高の10.5%だ。大統領の支持率は過去最低の24%を行き来している。この国でうまくいっているのは少子化対策しかないと皮肉られている。
EUが、国家の役割を強調する社会党政府に公共支出を削減するよう求めることは、社会民主主義をあきらめろという言葉のように聞こえるかもしれない。労働の柔軟性、年金削減といった構造改革の勧告も、大統領選の公約を破棄せよとの声だ。国を生かすには党が死なければならない状況だ。
翌日、フランスのオランド大統領は、ドイツのメルケル首相とのパリ共同会見で、「改革は私たちがすべきことであって、EUが命令することはできない」と憤ったと、外信が伝えた。しかし、メルケル首相が気勢をそいだという。
「私たちは労働市場に柔軟性を導入する改革を行った。若者に柔軟な雇用があるのがいいのか、あるいは、雇用がないのがいいのか」
泣くことも笑うこともできないオランド大統領の姿は、欧州の「進歩」が直面した惨憺たる状況を映す鏡だ。
フランスは、2008年の米国発金融危機とユーロ圏の財政危機後に行われたEU国家の選挙で、中道左派政党が単独政権を取った3国のうちの1国だ(ほかの2国はマルタとスロバキア)。経済危機が広まった時は新自由主義は破綻した雰囲気だったが、実際に選挙では右派政府を選んだ人が多かったということだ。
危機感に悩んだ欧州の左派政党と知識人が4月にデンマークのコペンハーゲンに集まって「進歩ガバナンス会議」を開いた。票が得られない理由は、「大きな政府、小さな市場」の保守左派の経済政策を固守して信頼を失ったためだということで意見が一致した。
もはや左派も、世界化、高齢化に適応しなければならず、特に市場を知ってこそ社会のために利用できるという結論は、意外ではあったが新鮮だ。韓国で聞かれることとはまったく異なる状況だ。この会議に参加した英国労働党は、先週「政権後に均衡財政の原理を守る」と過去との決別を表明した。
韓国のいわゆる進歩的な人々の間では「ドイツに学べ」がブームだ。ドイツ式の社会的市場経済を研究し、非正規職の撤廃と労組の経営参加といった経済民主化が行われてこそ、経済も活性化すると主張する。
彼らは、ドイツが変わったことをよく分かっていないようだ。メルケル首相が言ったように、現在のドイツ経済の核心は労働の柔軟性だ。10年前の社民党政府時代に、解雇を容易にし、雇用も簡単にできるようにしたハルツ改革のおかげで、今欧州で最低水準の5.4%の失業率を誇っているのだ。
党名から「進歩」という2文字を取るか取らないか検討しているという「進歩」つき政党や民主党が本当に国と国民のことを考えるなら、民主労組(全国民主労働組合総連盟)の説得に乗り出さなければならない。労組が労働の柔軟性を受け入れる代わりに、経営者側は時間制労働者の差別をなくすよう仲裁することは、与党セヌリ党よりも野党である民主党のほうが上手くやれるだろう。政府が失業手当と転職訓練を徹底的に施行するよう、民主党が率先して大妥協を引き出すなら、これ以上の政権担当能力を立証する方法はないだろう。
社民主義は死んでいない。もっと平等に良い暮らしができる社会に進もう、という夢は、ヨーロピアンであれコリアンであれ、生きている限り消えることはない。
問題は、1970年代以前の完全雇用が可能だった時代の解決策を21世紀に叫び続ける柔軟性のない保守だ。ハルツ改革を成功させても、今も善悪を質して理念闘争をし、9月の総選挙を目前にしても支持率が30%を下回るドイツ社民党に学んではならない。—ブリュッセルにて