お昼の時、30代前半の女性たちがバイキングの飲食店に集まった。最後に現れた友人に、誰かが投げかけた言葉が、盛り上がっていた空気に水を差した。「久しぶり、ところが、太ったわね。何かあったの?」
「贅肉」を「何かの出来事」に結びつける考え方は、男性らには見慣れないことだ。
女性らにとって、「贅肉」は、最も把握しやすいやり方だ。一握りの砂、何個分だけ体重が太ったり、減ったりしても、女性ら同士は一目で分かる。急に太ったなら、彼女らの解釈では、何かがあったに違いない。
フィンランドの職業健康研究所が、30〜55歳の女性230人のライフスタイルを、1年間あまりにかけて分析し、興味深い結果をまとめた。彼女らの22%が、ストレスを受けるたびに、「感情的食事(emotional eating)」に落ちることが分かった。
「感情的食事」とは、腹が減ったから食べるのではなく、憤りやストレスによる飢えのため、目の前の食べ物がなくなるまで、食べることを止めない状況をさす。これを招く飢えは、体でない「心の飢え」だ。食欲調節をつかさどる中枢は、理性の脳ではなく、感性の脳(視床下部)にある。
心の飢えに敏感な多くの女性らが、ストレスによる心の飢えを満たすために食べる。仕事がきつくて食べ、苛める上司のために、腹が立って食べ、ダイエットの強迫に苦しんで食べ、そのような自分の姿にがっかりしてまた食べる。さびしくて食べる。
心の飢えは、悪循環を招く。ストレスがコルチゾールやインスリンを分泌させれば、それが視床下部を刺激し、食欲を招く。ストレス性食欲は、甘かったり、脂っこい食べ物を求めるよう興奮させ、体により多くの脂肪を貯めさせる。肝臓に脂肪がたまれば、インスリン抵抗性を誘発し、すい臓にインスリンを続けて分泌するよう信号を送る。そのため、再び食欲へのとつながる。
ところは、脳は体に持続的に脂肪がたまってこそ、始めてストレスから脱することができる。これは長い進化による結果だ。我々の脳は、体に脂肪を十分に貯めさせ、食べ物が底をついても、当分耐えることができるとして、安心モードに入る。
分厚い腰の周りの肉が、肥満の指標であると同時に、ストレスを表す物差しである理由が、ほかならるここにある。女性同士が、「太ったわね?何かあったの?」と尋ねるのには、それだけの経験的根拠があるのだ。
女性らにとって、食べる行為は最高の楽しみであり、話の種になって久しい。ところが、あんなにおいしい食べ物を存分に食べながらも、体重を減らし、スリムな体を保たなければならないことが、ジレンマだ。
常識では、同時に達成できない、不可能に近い願いだ。しかし、女性らには、そんな不可能を壊すことこそ、「皆からうらやましがられる成功」である。