ソウル市公務員スパイ事件のユ・ウソン氏が控訴審でも無罪判決を受けた。1審で無罪が出た事件は2審が行われる中で、国家情報院(国情院)がユ氏がスパイであることを証明しようと、中国の入管記録証拠を改ざんしたことが判明し、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領と南在俊(ナム・ジェジュン)国情院長が直接謝罪しなければならなかった。国情院の証拠改ざんが控訴審で影響を与えたと言わざるを得ない。ただ、裁判部は中国人のユ氏が脱北者に支給される定着支援金を受け取った罪に対しては有罪を認め、原審と同じ懲役1年、執行猶予2年と追徴金2565万ウォンを言い渡した。
最高裁で1、2審が認めた事実関係が覆される可能性は高くないが、証拠保全陳述の証拠能力に関しては争うだけの余地があると言えよう。ソウル高裁は、ユ氏の妹が裁判官の主宰する証拠保全鉄月で兄のスパイ行為を認める陳述を行ったことに対して、証拠能力を認めなかった。一般的に裁判所は、証拠保全陳述の証拠能力を認めているが、今回の事件では証拠保全の手続きが非公開で行われたという手続き上の欠陥を理由に挙げた。スパイ事件は、証拠収集が困難であるため、関連証人や被疑者の証拠保全陳述に大きく頼っている。証拠保全陳述の証拠能力についての最高裁の判断に注目が集まるのは当然だ。
検察は結審公判で、「韓国への工作活動で脱北者の生命を脅かす深刻な安保危害行為をした」とし、ユ被告に実刑を言い渡して強制追放するべきだと主張した。証拠をめぐる議論が巻き起こるなかで、中国内の対北朝鮮情報のネットワークが崩壊し、スパイを逮捕するべき国情院の対共捜査局が存廃の危機に追い込まれたのは手痛い。
最近、脱北者の数が急増し、亡命ルートも多様化する中で、従来の捜査手法や法理では対応が困難な状況を迎えている。脱北者に偽装したスパイ捜査の場合、証拠が中国と北朝鮮にあり、当事者の陳述に頼る他ないという難点がある。民主社会のための弁護士の会(民弁)など弁護人によって捜査が制約を受ける例もある。スパイ事件捜査が無力化しないように、多角的な対策が必要とされている。
国情院の捜査チームによる証拠改ざんで刑事司法体系が愚弄された。今回のようなことが繰り返されないようにするためには、国情院が北朝鮮スパイ捜査の慣行や問題点を総点検し、新たに生まれ変わらなければならない。