性欲には定年がないという言葉がある。高齢者も性欲がある。しかし、高齢者の性欲ではなく、高齢者に向けられる性欲には、なかなか馴染めない。高齢者に性欲を感じるのを、老人性愛者(gerontophilia)という。子供に性欲を催す小児性愛症(pedophilia)と同様に、病的症状だ。男性高齢者に向けられた性欲をアルファメガミア、女性高齢者に向けられた性欲をアニリラグニアと呼ぶ。老人性愛症という言葉は、リヒャルト・フォン・クラフト・エビングが作り出した。ジーグムント・フロイトと同時期に活動した精神医学者だ。
◆仁川(インチョン)で起こった「カバンの中の遺体事件」の殺害犯チョン・ヒョングン。高齢の女性に性的暴行を加えようとしたところ、抵抗されたため殺害したことが明らかになった。警察の発表によると、チョン・ヒョングンは、その女性と酒を飲んでいたところ、欲情し、性的暴行しようとした。女性が抵抗したため、そばにあった焼き物のカップで、女性に暴行を加え気絶させた。女性が死亡したとばかり思ったチョン・ヒョングンが、カバンに詰めようとしたが、死亡していないことに気付き、凶器で殺害した。殺害犯は55歳で、被害者の女性は71歳だ。
◆しかし、加害者の病的倒錯だけで、高齢者向け性犯罪を説明することはできない。ギブスをしたり、車椅子に乗っている人に性愛を感じるのを、歩行障害者性愛症(abasiophilia)という。病的倒錯というよりは、なかなか抵抗できない相手を選んで、性犯罪を行うことに近い。高齢者も自力で自分を保護できる力が弱いことでは、似ている。高齢者が容易に強盗・窃盗の被害者になるのと同様に、正常な(倒錯的でない)性犯罪の被害者になることもありうる。
◆2年前、京畿平沢市(キョンギ・ピョンテクシ)のとある病院で、62歳の女性患者が、33歳の男の準看護師から性的暴行を受けたが、家族に知らせることができなかった。後になって警察に通報したが、「自ら誘惑しなければ、起こるはずがない」という周りの冷たい視線に苦しまなければならなかった。仁川の殺害事件も、性的暴行で終わっていたなら、71歳の女性が容易に通報できたかどうか疑問だ。犯人は、このようなことを狙っていたのかもしれない。女性高齢者の性犯罪被害に、社会が警戒すべき時期に来ている。
宋平仁(ソン・ピョンイン)論説委員 pisong@donga.com