伝貰(チョンセ=一定の住宅保証金を預けて生活し、転出時に全額返還される賃貸制度)は、韓国の不動産市場だけに存在するユニークな制度だ。最初は首都圏の一部の地域で実施されたが、次第に全国的に広まった。賃借人は後で住宅保証金をそのまま全額受け取ることができ、賃貸人は補償金を貯蓄や投資に回すことができるため、住宅賃貸借取引の代表的な形として定着した。月々の家賃制度を当然のように受け止めている外国人たちには、韓国の伝貰システムは理解できないという。
◆伝貰制度の住宅保証金の高止まりで、売買価格比住宅保証金の割合が90%を超える住宅が増えている。首都圏や蔚山(ウルサン)などの一部の地方では、住宅保証金が売買価格を上回る事例も目に付く。保証金が住宅売買価格の70〜80%を超えれば、住宅が競売に掛けられたり、住宅価格が急落した時、保証金の一部の返還がされない「保証金割れ住宅」に転落する恐れが強い。保証金の割合が住宅価格の90%を超えたり、特に売買価格を上回る現象について、「正気で無い住宅保証金」という言葉が出てくるほどだ。
◆低金利時代が始まり、住宅保証金を活用できるところがほとんどなくなった家主たちは、伝貰の代わりに月払いや保証金付きの月払いを好む。一方、依然、伝貰を希望するテナントたちは少なくなく、受給の面で住宅保証金を引き上げる要因となっている。人口構造の変化や経済成長の減速でかつてのような住宅価格の上昇を期待するのが難しくなり、売買市場で活気を取り戻すことができず、住宅保証金上昇の傾向はなかなか落ち着きを見せない。再建築による移住の需要が増えていることも影響を及ぼしている。
◆住宅保証金が急騰するからといって、政府や政治圏がポピュリズム対策を打ち出すのはなおさら危険だ。住宅保証金や家賃の上限制、賃貸借期間延長などの市場介入処方は、住宅保証金をさらに引き上げたり、賃貸物件の不足を煽る副作用を招いた。住宅保証金を巡る対策は低所得層の住居福祉を支援し、売買を促すレベルに止めるべきだ。過度に高騰した住宅保証金に不安を感じ、いっそ住宅を購入しようとするニーズが増え、新しいバランスが取れることもありうる。賃借人たちは、「まさか、保証金を踏み倒されることなどないだろう」という安易な考えで、住宅価格の90%を超える住宅保証金で契約したら、痛い目に会いかねない。市場状況を予測するのが難しい時は、住宅保証金の一部でも家賃に回して、安全弁を確保しておくのも賢明な方法だ。
権純活(クォン・スンファル)論説委員 shkwon@donga.com