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[オピニオン]金炯旭が作った哲学者申榮福

[オピニオン]金炯旭が作った哲学者申榮福

Posted January. 19, 2016 07:35,   

Updated January. 19, 2016 17:49

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申榮福(シン・ヨンボク)の最初の本「刑務所からの思索」が発売された時、刑務所でもあのような清廉な思索を引き出すことができたことに驚き、その著者が、無期刑囚の思想犯であることにまた驚かされた。焼酎「最初のように」が発売された時は、商標の情愛溢れる書体が申榮福が書いたものだということに再び驚いた。氏の「講義」や「談論」を読みながら、東洋古典への該博な知識や新鮮な解釈に改めて驚かされた。

◆申榮福は金炯旭(キム・ヒョンウク)が作った哲学者ともいえる。彼は、ソウル大学経済学部大学院在学時代の活動で、1968年、統一革命党(統革統)事件に巻き込まれた。金炯旭の中央情報部での捜査は過酷なものであったはずだ。申榮福が実際より、さらに深く関わったかのように起訴された可能性がある。何年か服役することで済むはずだったものが、20年間も閉じ込めておいたことで、彼は図らずも哲学者になった。刑務所で漢学者の李九榮(イ・グヨン)と同室になったことで、漢学を学び、世間の騒々しさから離れた人ならではの思索の時間を持つことができた。

◆申榮福は、韓洪九(ハン・ホング)とのインタビューで、統革党のスパイだったキム・ジョンテに抱き込まれた金礩洛(キム・ジルラク)がむきになって、革命を支持するかと尋ねると、そうだ、と答えたという。申榮福は、統革党事件で親廬系政治家、韓明淑(ハン・ミョンスク)の夫、バク・ソンジュンの「上部線」だった。統革統事件は、ソウル大学の安秉直(アン・ビョンジク)元教授などがその実体を証言している。軍事政権時代の多くの思想犯が、民主化後、再審を通じて無罪判決を受けたが、申榮福は再審請求をしなかった。申榮福は統革統事件が水増しされたと主張したが、彼が革命を夢見たこと自体は否定したくなかったようだ。

◆映画「ドクトル・ジバゴ」で、ボルシェビキに敵対的だった誰かが、「人間的にはボルシェビキは好きじゃない」と語るくだりが出てくる。申榮福が嫌いで、焼酎「最初のように」は飲まないという人もいるが、申榮福が示した精神世界は、イデオロギーの違いを乗り越えて、くまなく愛されている。世間を変えるには冷徹な頭よりは温かい胸のうちが、温かい胸のうちよりは実践する足の方が重要だという教訓は平凡に見えるが、故に寧ろ感動を与える。あの世に旅立った申榮福の前でイデオロギーはつまらないもののような気がする。

宋平仁(ソン・ピョンイン)論説委員 pisong@donga.com