黒い手袋をはめた一人の男性が、黄色く色あせした本をさわりながら話した。本の隅には、歳月が染みついていた。彼は、ひらひらと薄くなった紙が破れるのではないかと、慎重に一枚ずつめくった。
「これまで見つかった本よりもっと古いもののように見えますが、別の版本(木版で印刷した本)の誤字脱字を確認できる資料になるでしょう」。同じく黒い手袋をはめた別の男性の二人も、交互に本を手にして細かく目を通した。
彼らが見ている本は、高麗時代の僧侶だった「一然」が、忠烈(チュンリョル)王7年(1281年)に記した「三國遺事」だった。三國遺事は、高句麗や百済、新羅の正史を盛り込んだ「三國史記」と共に韓国で最も有名な歴史書だ。三国史記が三国の政治史を盛り込んでいるなら、三国遺事は、「遺事(正史では扱わなかった内容)」と言う名からもわかるように、正史には盛り込まれなかった説話や野史を盛り込んでいる。檀君(タングン)神話が記録された歴史書としても広く知られている。
ソウル市は昨年3月、宝物(第1866号)に指定された三国遺史1、2巻の国宝昇格のため、ソウル市文化財委員会審議を7月に開く予定だと、30日明らかにした。三国遺事の1、2巻は、延世(ヨンセ)大学史学科の故孫寶基(ソン・ボギ)元教授が所蔵していたものを、2013年、遺族が延世大学に寄贈したことで、世間にその存在が知られた。その後、遺族は、ソウル市に文化財指定を申請し、ソウル市と文化財庁が審議を経て、昨年、これを宝物に指定した。文化財指定は、申請者が地方自治体に申請すれば、自治体が事前審議を経て、文化財庁に要求して行われる。
ソウル市とソウル市文化財員会委員らは23日、西大門区(ソデムング)にある延世大学博物館で、三国遺事1、2巻の国宝昇格に向けた現場調査を行った。この席に出席したソウル市文化財委員会委員らは、延世大学博物館に保管している三国遺事が、2003年に国宝(第306-2号)に指定された三国遺事の正德本(1512年)より、約100年前に作られたものと推定した。中央(チュンアン)大学文献情報学科の宋日基(ソン・イルギ)教授は、「高麗時代に刷られた三国遺事はまだ見つかっておらず、この三国遺事はこれまで残っている最古版本である可能性が高い」と言い、「本がきれいに保管されているので、正德本と比べることで間違った表現や表記を正すことができるだろうと期待している」と話した。
ソウル市は7月に、文化財委員会審議を通じて、国宝申請如何を最終的に確定する計画だ。ソウル市が国宝申請をすれば、文化財庁文化財委員会の審議を経て、国宝指定が決められる。ソウル市の関係者は、「ソウル市に国宝昇格依頼が寄せられたのは、2007年のダルハンアリ白磁以降初めてだ」と言い、「すでに宝物に指定されている文化財だけに、十分な検討や審議を経て、国宝指定を進めたい」と語った。
송충현기자 ソン・チュンヒョン記者 balgun@donga.com