事態の長期化が憂慮され、ISがフィリピンの代表的なイスラム教徒集中居住地域(最大40%がイスラム教徒)のミンダナオに東南アジアの「カリフ国家」建設を目論んでいるという観測も流れている。インドネシア紛争政策研究所のシドニー・ジョーンズ所長は、米紙ニューヨーク・タイムズに、「ISは『ジハード(聖戦)に参加しようとする戦士にシリアに来ることができない者はフィリピンに行け』と指示している」と話した。ISがミンダナオをカリフ国家の候補地にしているということだ。
実際にミンダナオでフィリピン政府軍と戦って死亡した武装勢力の中には、インドネシア、マレーシア、チェチェン、イエメン、サウジアラビア出身が多数含まれているという。インドネシアのIS関連のテロ組織「ジャマー・アンシャルット・ダウラット」(JAD)のメンバーもミンダナオ事態に組織的に加担したと伝えられた。
このためインドネシアは、フィリピンとの国境地帯の海域に潜水艦など海軍力を増強配備するなど、ISに忠誠を示す武装勢力のフィリピン流入と脱出に備えている。マレーシアやタイなども最近、国境や空港などのセキュリティと出入国の審査を強化した。
ISは昨年、フィリピンの過激派組織「アブ・サヤフ」の指導者、イスニロン・ハピロンを東南アジアの統治者(emir)に任命した。ハピロンは、米連邦捜査局(FBI)が500万ドル(約56億5000万ウォン)の懸賞金をかけた「第1級の危険人物」だ。
フィリピンの劣悪な治安状態は、ISに忠誠を示す勢力がミンダナオで勢力拡散に容易に乗り出せる環境になっている。ニューヨーク・タイムズは、ドゥテルテ大統領が公権力の回復と社会の安定を重要公約に掲げたが、就任後、麻薬犯罪撲滅に過度に集中していると指摘した。このため麻薬犯罪よりはるかに国家安保に致命的となり得るIS忠誠勢力の掃討には相対的に神経を使わず、現在の事態を招いたということだ。
アキノ前大統領の時に行われた武装勢力との平和交渉が、ドゥテルテ大統領の就任後、膠着状態に陥ったことも問題だ。米国防大学のザカリ・アブザ教授は、「フィリピン政府はISとその忠誠勢力の成長を無視し、平和交渉が崩壊し、(フィリピン内の強硬派イスラム教徒の)IS忠誠の動きが一層活発になった」と分析した。
一方、最近の武装勢力の掃討で、フィリピン政府軍が米軍特殊部隊の支援を受けており、昨年6月のドゥテルテ大統領就任後の「脱米親中」政策に変化があるか注目される。
ドゥテルテ大統領は11日、記者会見で、「米軍の支援を要請したことはない」とし、「米軍が到着するまで知らなかった」と否定した。支援要請の事実を発表した軍部が大統領の意向に逆らったのかという質問には、「軍が長い間米国から訓練を受け、軍が親米指向になっていることは否めない」と述べた。フィリピン大統領報道官は、「テロとの戦いはフィリピンや米国だけでなく世界すべての関心事だ」とし、「どこの国の支援にも(門戸を)開いている」と説明した。
中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹紙「環球時報」は、米特殊部隊のフィリピン支援とドゥテルテ大統領の発言を詳しく紹介し、神経を尖らせた。今回の武装勢力の除去を機に、米国とドゥテルテ政府の関係が改善されるという展望が出ているためだ。
李世亨 turtle@donga.com · 具滋龍 bonhong@donga.com