絵は世の中を映す鏡だ。16世紀のオランダの画家ピーテル・ブリューゲルは、自分が生きた時代を観察し、絵で記録した。農夫、知識人、軍人など当代の人間の姿や風景、またはオランダのことわざや聖書の話を描いて歴史の教訓を伝えようとした。
この絵には、遠くに教会が見える田園を背景に一列に並んで歩いている6人の視覚障害者が登場する。一番前で5人を先導する視覚障害者が先に穴に落ちると、彼を信じて後についていた2番目の視覚障害者も倒れている。杖の先を前の人と取り合ってついて来ていた3人目の視覚障害者までバランスを失い、まだ状況が把握できずについて来ている残りの3人も同じ運命を避ける術はなさそうだ。
「視覚障害者の寓話」は、マタイ福音書15章14節に出てくる話を描いたものだ。ファリサイ派の人々がイエスの教えを快く思わずあざ笑うと、イエスは弟子にこのように話す。「放っておきなさい。彼らは目の見えない人々の目の見えない案内者だ。目の見えない人が目の見えない人を導けば、2人とも穴に落ちるだろう」
ここで「目の見えない人」は、視覚障害者を意味するのではなく、見ても分からない目の見える視覚障害者をいう。愚かな指導者による弊害をたとえた話で、国や組織を率いる指導者の役割がどれほど重要かを語っている。また、見ても分からず、分かっていても実践しない愚を犯してはならないという教訓も含んでいる。この絵が感銘を与えるのは、450年前の画家が伝えるメッセージが現在でも有効なためだろう。
ブリューゲルは死ぬ1年前にこの絵を描いたが、当時はオランダの歴史で最も暗い時代だった。スペインのフェリペ2世の統治下でオランダ独立闘争をした反乱軍とプロテスタントが大勢逮捕され、処刑された暗鬱な暴政の時代だった。ブリューゲルは死ぬ直前、自身の絵が扇動的に見られて家族に災いが及ぶかと思い、多くの絵を燃やしたと話した。
美術評論家