4日、中国上海市内のど真ん中で、董瑤瓊(29)という女性が習近平国家主席の肖像が描かれた「中国夢」の宣伝物に墨汁を吹きかけた。これをツイッターで中継しながら、「習近平の独裁専制に反対する」と主張した。女性は現在拘禁された状態だ。インターネットを中心に墨落書きを真似する動きが相次ぐと、中国当局は、北京・広東省東莞・湖南省長沙などの公共場所から習主席の肖像画を撤去した。
◆米国と中国の間で貿易戦争が起きた後の9日付けと15日付の人民日報1面から、習主席の名前が消えたことも異例と言える。2012年の政権発足以来強化されてきた習主席の個人崇拝宣伝が内部反発を意識してレベル調整に乗り出したという分析だ。中国共産党政権の正当性は選挙ではなく、年間10%前後の経済成長から始まる。習主席が「社会主義大国」を宣言して、改憲を通じて長期政権の基盤を整えた背景にも、このような自信がある。ところが、貿易戦争で中国の経済成長が鈍化する兆しを見せたことで、習主席のリーダーシップも傷つけられるようになった。
◆1990年代に活発な議論が行われた近代化理論は、経済成長を民主主義移行の前提と見た。経済が発展すると、前近代的な社会構造や価値が変わることになる。ある程度お腹を満たしてこそ、個人の権利を自覚するようになるという意味だ。韓国、台湾が代表的である。このような社会的ニーズを収束して民主主義に進むようになるが、そうしなければ、社会が不安になる。革命の種が宿ることになる。今回の墨事件が1978年の改革開放以来、歴史に逆行しようとする「習近平体制」にどのようなシグナルになるのか注目される。
◆2016年1月、北朝鮮の両江道三水郡(ヤンアンド・サムスグン)ポソン駅で「金正恩(キム・ジョンウン)X野郎」という落書きが発見されたことがある。当時、自由アジア放送(RFA)は、北朝鮮当局が大々的な検挙に乗り出したと報じた。ふと習主席墨落書き事件を眺める北朝鮮の金正恩国務委員長の本音が気になる。独裁者の算法で計算して見ると、首領体制を保衛する正義の宝剣である核を捨て、不安定性が高まる経済発展を選ぶことができるだろうか。対北朝鮮制裁があちこちで穴があいたというニュースに、これまでの北朝鮮の計算が変わってしまったのではないか気になって仕方がない。