「ソウル!」
舞台に立つとすぐにこう叫びながら両腕を両脇に伸ばした彼は、まるでこれから紅海をかき分けようとするモーセのようだった。195センチの長身だからか、異国の神のような気もした。7日、ソウル松坡区(ソンパグ)で開かれた音楽祭「スローライフスローライブ」で見せた超人的演奏と歌に、客席のあちこちから「正気でない」というざわめきが聞こえた。
初めて来韓した米国の新星シンガーソングライター、モーゼス・サムニー(28)。世界的に大人気の彼を公演前に宿舎で会った。サムニーは昨年、1回目のアルバム「Aromanticism」で世界の評論家たちから絶賛を引き出した。男女の音域を行き来する精巧で流麗なパルセト歌唱は、まさに超現実的。夢幻的なハーモニーと独創的な旋律感覚で、彼はR&B、フォーク、ジャズの境界が顔負けするような新しい音楽絶景を作り出した。
「10代の時、60ドルのギターを買って音楽を独学しました。耳に聞こえる通りに、心が示すとおりに演奏するうちに、自分の音楽が創造性を持つようになったのかもしれません」
浮上するファッションのアイコンでもある。先週、フランス・パリのファッションウィークに参加した。ルイヴィトンの新しいファッションショーの音楽を作った。サムニーのプロモーションビデオとアルバムのカバーは、ミニマリズムファッションの真髄といえる。共同演出と主演を引き受けたビデオで、サムニーは人魚や馬と恋に落ちる。奇怪だ。「人間性への好奇心こそ、常に私の関心事です。エイリアンや動物の目で探求したかった」。
自分では黒のファッション伝道師だ。アンドレ・キムと正反対といえる。「2、3年前から黒服しか着ていません。このような黒のジャケットだけで20着持っています。きれいに見えるからいいですね」。
米国で生まれたが、両親の故郷であるアフリカ・ガーナのアクラで6年間青少年期を送った。アルバムの裏紙の馬の写真も、すべてアクラで撮影したもの。なぜあれほど馬が好きなのだろうか。「馬は人間に似ています。強くて美しいが、時には不気味ですね。アーティストはなおさらそうです。値が付けられ、公共の財産としてみなされ、時には誰でも乗る存在という点ではですね」。
サムニーは、幼い頃から立ち向かった孤独こそ、芸術の栄養だと主張した。超高音の歌唱は一人で インディア・アリーやジョニ・ミッチェルのような女性歌手たちの歌を真似た挙句体得したものだという。
サムニーは最近、議論となっている新しいシングル「Rank&File」を出した。白人警官による黒人の過剰鎮圧問題を直接的な歌詞、激しい楽曲、叫びのような絶唱に盛り込んだ。「2014年のデモ現場で私が直接録音した群衆の憤りの声を収録しました。いつかは必ず発売するべき歌でしたね」。
「モーゼスは人間じゃない」。この曲のプロモーションビデオにつけられた誰かのコメントだ。
イム・ヒユン記者 imi@donga.com