「エジプト版カショギ氏」経済学者が逮捕

「無条件に国家を称賛しなければなりません。ほかの考えを言うことは事実上、不可能です」

インタビューの間、慎重に言葉を選んでいたナグラ・オスマさんは、この言葉だけは力を込めた。オスマさんは、エジプト政府の経済政策を批判した本を書いたという理由で２１日に警察に逮捕された経済学者アブドゥル・カリック・ファルクさん（６１）の妻だ。２７日午後、カイロ州北部のエルショルク市の自宅で会ったオスマさんは、夫の知らせが来るか期待してインタビューの最中も常にスマートフォンを確認した。

　

ファルクさんは逮捕される前、『エジプトは本当に貧しい国なのか』という本の出版を控えていた。２１日午後、自宅に３人の警官が来て、「あなたが書いた本について調査することがある」と言ってファルクさんを逮捕した。出版社で印刷を準備していた本の原稿は押収された。出版社の代表も逮捕され、取り調べを受けて解放された。

ファルクさんは本で、エジプト経済や社会的危機を批判的に分析した。経済・教育など様々な分野で「改革」を強調しているシーシー大統領は、数回に渡って公開の席上で「エジプトは貧しい」と言及してきた。ファルクさんは本で、「エジプトの貧困は政府の誤った政策による結果」と結論づけた。政府の政策に問題があったと非難したのだ。

現地メディアによると、警察側は「国家経済に悪影響を及ぼす誤った情報を含んでいる」と逮捕の理由を明らかにした。人権団体「アラブ人権情報ネットワーク」（ＡＮＨＲＩ）のある弁護士は、「ファルクさんは虚偽ニュースをばらまいた疑いで取り調べを受けているだろう」と話した。

　

出版を控えてファルクさんは、研究内容が入った自身のコンピュータを売ってしまった。警察が自分の動きを監視していると考えたからだ。オスマさんは、「研究内容がすべて警察に押収された場合、さらに大きな罪に問われることを恐れたためコンピュータを売った」と話した。

　

人権団体や進歩系の中東のメディアは、「自分たちの政策判断に異議を唱えるジャーナリストや学者を抑圧するさらなる事例」と指摘する。サウジアラビアの王室や政府に批判的なコラムを書いて、トルコ・イスタンブールのサウジ領事館で残忍に殺害されたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の事件と大差ないということだ。

今年４月に「国境なき記者団」（ＲＳＦ）が発表した「世界報道自由度ランキング２０１８」で、中東・アフリカ地域の主要国がほとんど下位圏を占めた。エジプトは１８０ヵ国の中で１６１位を記録し、アラブ首長国連邦（１２８位）、イラン（１６４位）、サウジアラビア（１６９位）なども下位圏を占めた。

国際人権団体は、「これらの国の大半が、国際社会に改革的な姿勢を見せようと努めているが、内部的に表現の自由を徹底して抑圧している」と批判する。エジプト警察は１０月、フェイスブックにタクシー運転手や警備員などから受けたセクハラの経験を言及して政府が女性を保護できないと指摘する動画を投稿した女性を逮捕した。７月には、イランの１０代の少女がヒジャブを身に着けずに踊る映像をソーシャル・ネットワークキング・サービス（ＳＮＳ）に投稿して警察に逮捕され、取り調べを受けた。エジプト政府は、メディア規制最高評議会を置き、フォロアーが５千人以上の人のソーシャルメディアやブログ、ウェブサイトなどを管理・監督している。


徐東一 dong@donga.com