月の出る歌が私たちを慰めていた時期があった。1924年に発表された最初の韓国童謡「半月」もそうだった。「カッシア木一本、ウサギ一頭」がある月は、「マストもつけないで、棹もなく」広い海を進む丸木舟だった。「嫁いだ大姉の死亡の知らせに接して、凄然な気持ちで作った」という作曲家尹克榮(ユン・グクヨン)の狙いとは関係なく、人々はこの歌によって慰められた。日本植民地時代は、国を失った悲しみになぞらえて歌い、光復(日本植民地からの独立)後は歴史の節目ごとにこの歌で気持ちをなだめた。
脈絡は少し異なるが、英国のロックバンド、ピンク・フロイドの月も、私たちを慰めるのは同じだった。1973年に発表したアルバム「月の裏面(Dark Sideof the Moon)」に収録された「ブレインダメージ」は特にそうだった。「悪い兆候のため、頭が爆発しそうになったら/私は月の裏側からあなたを見るでしょう」「雲があなたの耳で裂け、ゴロゴロ鳴らすなら/あなたが叫んでも、誰も聞かないようであれば/私は月の裏側からあなたを見ることになるでしょう」
ピンク・フロイドの語る「月の裏側」は、人間の暗い感情や衝動を示す隠喩だった。この歌は、「私」もそうだから、暗い感情や衝動に苦しむ「あなた」を十分に理解できるというねぎらいの歌だった。
その月は、私たちには神話であり比喩だった。カッシア木とウサギが住んでいる丸木舟であり、人間の本性の暗い面だった。ところが、いつものように科学文明は、その神話と隠喩をついに破ってしまう。50年前は米国が打ち上げたアポロ11号が尹克榮が伝えるカッシア木とウサギの神話を崩し、今は中国が発射した嫦娥4号が月の裏側に着陸したことで、ピンク・フロイドが伝える暗い人間の本性についての隠喩を破った。ウサギの神話は、月の裏側を探査するロボットの名前(玉兎)にのみ残った。隠喩と神話は科学によっていつもそのように崩れる。それを発展と呼ぶが、我々はそれによって比喩と神話を失い、より貧しくなった。その貧困の終わりはどこだろうか。
文学評論家・全北(チョンブク)大学教授