「スーパーソニック(superSONic)」孫興民(ソン・フンミン=27、トッテナム・ホットスパー)の嵐の疾走が作り出したワンダーゴールだった。
トッテナムが2-0でリードした前半32分。自陣のボックス脇でボールを拾った孫興民は、バーンリーのゴールに向かって走り出した。「超音速」という意味の英語(Supersonic)に孫興民の姓(SON)を大文字で書いた異名を持つ孫興民の突破に、5万8000人あまりの観衆は、次々と立ち上がって「ゴー!ソニー!」を叫び始めた。
瞬間最高スピードが時速34.3キロ(100メートルの記録に換算すれば10秒50)の俊足を持つ孫興民は、次第にドリブルのスピードを上げた。ハーフラインを超えては右足でボールを2回タッチして相手守備を突き抜けた。12秒で相手のペナルティーエリアにたどり着いた孫興民の前にはGKだけが立っていた。バーンリー選手8人をかわした孫興民は、落ち着いて右足シュートでゴールネットを揺らした。
孫興民が8日、本拠地ロンドンで行われたバーンリーとのプレミアリーグ(EPL)第16節でファンタ―スティックなゴールを決めた。米紙ニューヨーク・タイムズによると、孫興民は12回のボールタッチで73.152メートルを独走して得点に成功した。これは昨年11月のチェルシー戦で決めた50メートル独走ゴールを超えるもので、EPL進出後、最長距離の単独ドリブルによるゴールだった。この日1ゴール1アシストを挙げた、トッテナムの5-0の大勝をけん引した孫興民は、シーズン10得点9アシストを記録した。2016~2017シーズン以来4シーズン連続の二けた得点にも成功した。8位だったトッテナムは6位(勝ち点23、6勝5分け5敗)となった。
試合後に孫興民は、「デレ・アリにパスしようと(ドリブルの)スピードを落としたけど、そういう状況になっていなかった。それで、ドリブルを続け、相手のいないスペースに突き抜けるのに運も味方して得点に成功した」と話した。
稲妻のように孫興民と秋風に散り落ちる木の葉のように崩れるバーンリー選手たちの姿が克明に対比されるワンダーゴールは、世界の注目を浴びた。イングランドのレジェンド、ゲーリー・リネカーは「孫興民のゴールは個人技で作った偉大なゴールだ。私が思うに、今シーズン最高のゴールだな」と絶賛した。シーズンを通して最も優れたゴールを決めた選手に贈られる国際サッカー連盟(FIFA)の「プスカシュ賞」は孫興民で決まり、との評価がいち早く出た。
EPL事務局もインスタグラムに孫興民の写真を掲載し、「今シーズンのゴール?」というコメントをつけた。韓国、英国、メキシコのサッカーファンたちは、この投稿に「敵陣に切り込んだ趙子龍をみているようだ」「孫興民のサーカスだった」などのコメントをつけた。しかし、孫興民は「今回のゴールは特別ではないか」という質問に、「自分にとってすべてのゴールが重要な経験で実績だ。自分にはすべてのゴールが大事だ」と謙遜した。
孫興民のゴールの過去のレジェンドたちの記録的なゴールの記憶を呼び起こした。米国のESPNは、「孫興民がディエゴ・マラドーナを思い出させるゴールを決めた」と報じた。マラドーナ氏(アルゼンチン)は1986年のメキシコ・ワールドカップ(W杯)で、5人のイングランド守備の間を割って60メートルほどを疾走し、GKまで制してゴールを決めた。英国BBCの解説者は、「黒豹ジョージ・ウェアが戻って来たようだ」と評価した。1996年にACミラン(イタリア)所属だったウェア(リベリア)はベローナを相手に82メートルを独走して得点した。
トッテナムの指揮官ジョゼ・モウリーニョ監督は、孫興民をブラジルの伝説ロナウドと比較した。2002年韓日W杯で得点王に輝いたロナウドは、現役時代「皇帝」と呼ばれた。モウリーニョ監督は、「FCバルセロナ(スペイン)で仕事していた時、ボビー・ロブソン監督の隣でロナウドの凄いゴールを見た時を思い浮かべた。孫興民はソンナウド(ソン・フンミン+ロナウド)だった。私の息子も孫興民のことをソンナウドと呼んでいる」と話した。直接は触れなかったが、モウリーニョ監督が口にした試合は、ロナウドがハーフラインからドリブルを始め、絢爛な個人技で相手守備を崩して、得点まで成功した1996年のバルセロナ対コンポステラ戦とみられる。
一方、孫興民は同日の試合に先立ち、韓国のレジェンド、朴智星(パク・チソン=38)からアジアサッカー連盟(AFC)アジア国際年間最優秀選手賞トロフィーを受け取った。孫興民は「あんまり会えてないけど、凄く頼りにしているし、気になることは良く訊いたりしている。智星さんから賞をもらえて光栄だ」と語った。
鄭允喆 trigger@donga.com