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コロナに頭を下げた「祭り中の祭り」

Posted March. 13, 2020 08:08,   

Updated March. 13, 2020 08:08

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「問題は、今、私たちが危険なことだ。件数を上げなければならない!今週、オースティンで開催されるSXSWに行くんだろう?お金をたくさん使わないで」

オアシスとレディオヘッドが猛威を振るった1997年、英ロンドンにある世界的なレコード会社「ユニグラム」の会議室の風景。スティーブン(ニコラス・ホルト)は、この会社のA&Rの従業員だ。A&Rとは、「アーティスト・アンド・レパトワー」の略字。一般企業であれば、人材開発チームぐらいだろうが、レコード会社であれば、その重さが違う。人材、すなわちアーティストは、レコード産業のアルファであり、オメガであるからだ。

「スティーブン、オースティンに行ってまともなバンドを連れてきたら、あなたはヘッド(チーム長)になるだろう」

スティーブンの肩が凝りそう。一言で負担感がものすごい。彼はSXSWに向かう。映画「キル・ユア・フレンズ」(2015年)の中の物語だ。

#1〓「ヒップホップ、トランス、羊の膀胱の上で演奏するブルガリアのヘビーメタル…。ヒットさえすればなんでも構わない」

公演会場に入りながら、スティーブンは悲壮に独白する。これは、SXSWを下品ではありながら、適切に説明している。文字通り、世界中のありとあらゆるミュージシャンが集まって、一週間2000件の公演を繰り広げる音楽亂場だからだ。多くのレコード会社、マスコミ関係者が毎朝、濃いコーヒーで二日酔いをなだめながら、夜遅くまで街の色々な会場を歩き回る。新鮮で「人気がありそうな」ミュージシャンを発掘するためだ。

#2〓SXSWは、「サウス・バイ・サウスウエスト」の略字だ。韓国語に訳すれば、「南南西」。文字通り、米南南西部のテキサス州・オースティン市で毎年開催される一種の博覧会だ。名称は、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画「北北西に進路を取れ」(1959年)をひねったもの。映画祭(SXSWフィルム)、企業・技術市場(SXSWインタラクティブ)、音楽博覧会(SXSWミュージック)で構成されている。スティーブンが気をもませるところは、SXSWミュージックである。

#3〓SXSWに5年間も参加したのは、記者として、音楽ファンとして熱い祝福だった。あの時の強烈な体験は、脳と血管に刻まれ、ほぼ毎日うごめく。今ではスターとなった英国の歌手デュア・リパの無名時代の公演もそこで見た。観客30人の小さなライブハウスで。小劇場と呼ぶにもきまり悪そうな、バーの片側のスペースで公演を行った彼らが、1〜3年後にスーパースターになることが、SXSWでは日常茶飯事だ。人気と青春のピークを過ぎたベテランが、立ち直りのために努力する舞台も印象的だ。「Kiss Me」で有名なグループ「シックスペンス・ノン・ザ・リッチャー」のボーカル・リー・ナッシュが、小さなバーで、夫のギター伴奏に合わせて行っていた公演が思い出される。SXSWでは、観客が三人でも最善を尽くさざるを得ない。その三人が、ユニバーサルミュージックの代表取締役、ニューヨークタイムズの専門記者、ライブネーションの総括取締役かもしれない。

#4〓新型コロナウイルス感染症(COVID19)の拡散と共に、全世界の様々な公演やフェスティバルが相次いで延期とキャンセルを宣言している。代表的なものが、SXSWと「コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル(以下、コーチェラ)」である。本来であれば、今開かれているべきSXSWと、毎年4月に開かれるコーチェラは「祭り中の祭り」と言える。その年の音楽市場の勢力図を予測できる前哨戦である。米カリフォルニア州・インディオで開催されるコーチェラは、年末まで続く世界のマンモス級音楽フェスティバルの先鋒であり、垣間見ることのできるところだ。スターの出演者たちは、それぞれびっくりするほどのゲストを舞台に上げて、その翌日、メディアに自分の名前が出そろうことを望む。一種の戦場と言える。2016年にコーチェラに行ったとき、例えば、ラッパーのアイスキューブの公演を見る途中、口に含んでいたビールを何度も吹き出しそうになった。伝説のヒップホップグループ・N.W.Aの生存メンバー全員にケンドリック・ラマーまで、飛び出るラッパーたちに目をこすらずにはいられないからだ。

#5〓SXSWとコーチェラをはじめとするいくつかのお祭りが、秋頃に時期を移す案を模索しているという。世界の大衆音楽界としては、前菜が消えたディナー、前奏のないポップソングのような年を迎えるようになった。長くは今後2、3年のポップ市場を見計らう見本市が閉鎖されたことになる。

一日も早く、このひどい病魔が退くことを祈る。今回の事態で、心と体に傷を負った方々に芸術の楽しみでもお伝えしたい。そして予期せぬ幸運と祝福を受けて、皆一緒に2021年にSXSWとコーチェラに行くことができるように…。ところが、危機のスティーブンはどうなったのだろうか。