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サッカー場における人種差別

Posted June. 12, 2020 08:54,   

Updated June. 12, 2020 08:54

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2006年ドイツ・ワールドカップ(W杯)の真っ只中だった6月のドイツ・ケルン駅でのことだった。宿敵スウエーデンとの対戦を控えたイングランドサポーター数万人が集まった。上着を脱いだまま旗を振るサポーターズがケルン駅前広場を埋め尽くした。一部はすでに酒に酔っていた。近くの競技場に向かう電車もイングランドサポーターズでぎゅうぎゅう詰めになっていた。ライバルとの試合を控えて感じる興奮感。みんなでシュプレヒコールを唱和したり大声で叫ぶ騒ぎぶりは、電車の中を非日常の空間にしてしまった。そんな中で逸脱行為も起きた。茶色の肌にヒジャブを着けたイスラム系女性二人が、とある駅で降りようとした時のことだった。身長が2メートルはあるとみられる大柄の白人男性が電車のドアを塞いだ。乗客の中でその駅で降りようとしたのは、その二人の女性だけだったが、男は道を空けよとしなかった。隣にいた仲間たちもと何かと大声でしゃべりながら爆笑した。戸惑った女性たちは、結局その駅で降りれず、泣きながらどけてくれとお願いし、ようやく次の駅で降りることができた。全く見知らぬ人に対する乱暴な行動だった。二人の女性が白人男性か白人女性でも同じように行動しただろうか。人種に対する、弱者や少数者に対する無礼さと暴力とが入り混じった、そのような行動には恐怖感さえを覚える。

2006年のドイツW杯は国際サッカー連盟(FIFA)が本格的に人種差別との戦争を宣言した大会だった。この時から選手や観客が、特定チームや選手に対して人種差別行為をした場合は、当該チームの勝ち点3をはく奪する人種差別禁止規定が設けられた。FIFAは、競技場の各所に「人種差別に反対する」(Say no to Racism)と書かれた横断幕を設置し、選手たちに人種差別反対を宣誓させた。サッカー界の人種差別問題をこれ以上放置できないと判断したからだった。電車の中での場面のように、日常の中に根付いている人種や特定国、特定民族に対する差別意識が競技場の高揚した雰囲気の中でややもすると表に出て来たりしたのだ。

数十年前に活躍した「サッカー皇帝」ペレ氏(80・ブラジル)も、何度も人種差別を経験した明かした。有色人の自分を観客が猿と呼んだという。人種差別は、未だに問題になっている。その中でも有名な事件の一つが2014年にスペインのリーガ・エスパニョーラ、FCバルセロナでプレーしたいたダニエウ・アウベス(37・ブラジル)に観客がバナナを投げた事件だ。有色人のアウベスをからかう行為だった。しかし、アウベスは涼しい顔でバナナを拾って一口頬張っては捨て、再びプレーを続けた。嘲弄を無視したアウベスは多くのエールをもらった。

しかし、ただ無視するだけで問題が解決するだろうか。人間を同等な人間として向き合おうとしない

人種差別は、深い侮蔑感と傷を与える。イタリアのセリエA、ブレシアのマリオ・バロテッリ(30・イタリア)が昨年末、観客から猿の鳴き声を聞いてボールを観客に向けて蹴ったのは、「悪童」と呼ばれる過激な性格だけが原因ではなかったはずだ。人種差別は黒人だけではなくアジア選手に対しても行わている。韓国のスーパースター、孫興民(ソン・フンミン=28、トッテナム・ホットスパー)も人種差別行為で死んだ米国の黒人ジョージ・フロイド氏を哀悼するパフォーマンスに参加したのは、人種差別問題が私たちみんなの問題でもあることを認識しているからだろう。

ノーベル平和賞を受賞したネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領は、「スポーツは人権のための戦いに使える」と話した。多くの人々が見守るスポーツの現場が持つ波及力に触れた言葉だ。しかし、真に問題を解決するためには意識の転換が必要だ。ドイツW杯で人種差別反対キャンペーンに参加したユニセフは、「人種差別とは、性や人種、障がい者などに対して子供の時から養われて偏見の産物だ」と指摘した。人種差別は非科学的で文化的な偏見から生まれたものだ。こうした観点から、子供の時から皆が一つになって交わるスポーツの現場を見て育つことは重要だ。そうした体験が偏見をなくすのに役立てるはずだ。そうなったとき、スポーツは体がぶつかり合う現場であるだけでなく、精神面、文化面で発展する現場になるだろう。


李元洪 bluesky@donga.com