北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長から国政全般の権限を委譲されて「委任統治」をしていると国家情報院が明らかにした金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長が、今月に入って北朝鮮メディアの報道に姿を現わしていない。実質的なナンバー2とされた与正氏が党の主要会議に姿を見ず、背後で正恩氏を助けて会議の進行を総括していると、北朝鮮事情に詳しい消息筋が伝えた。
●8月の主要会議に姿を見せない金与正氏
北朝鮮メディアは、今月13日の党中央委員会政治局会議と19日の党中央委員会第6回全員会議に与正氏が出席したかどうか明らかにしなかった。党内の名目上の地位が政治局候補委員であるため、これら主要会議の出席者リストに名前があるという予想が外れたのだ。さらに、国家情報院は20日、国会情報委員会業務報告で、「与正氏が国政全般で委任統治している」と明らかにした。
与正氏は先月27日、休戦協定締結67年を迎え、正恩氏が軍の主要幹部に白頭山(ペクトゥサン)の拳銃を与えた席を最後に北朝鮮の報道に姿を現わしていない。与正氏は以前も、各種行事で正恩氏に同行する姿が捉えられた。世宗(セジョン)研究所北朝鮮研究センターの鄭成長(チョン・ソンジャン)センター長は、「白頭血統である与正氏が必ず会議の前面に出なければならないわけではない」とし、「見えない位置で行事を主管し監督する役割をしたと見なければならない」と指摘した。
総括していると国家情報院が明らかにした対南・対米業務で次のメッセージを出すために準備している可能性もある。米CNNは、「北朝鮮メディアが、与正氏が(重要な)何かに備えているという印象を与えようとしているようだ」と報じた。与正氏は3月から6月までの3ヵ月間で6回、強硬な談話を発表し、存在感を示した。北朝鮮が開城(ケソン)連絡事務所を爆破する3日前、談話を通じて挑発を予告し、先月10日には米朝非核化交渉を当分の間進めないというメッセージを米国に送った。
一部海外メディアは与正氏が最近、公式の席上に姿を現わさないのは地位が降格されたためではないかと主張した。米国の北朝鮮専門サイト「NKニュース」は同日、「今月会議に参加しないのは、権限拡大の情報と一致しない」と指摘した。
ある北朝鮮事情に詳しい消息筋は、「与正氏が対南・対米戦略を総括して、米朝非核化交渉と南北関係が不安定になった」と指摘した。今年32歳の与正氏は経験不足で、6月の開城連絡事務所爆破のように乱暴で衝動的な対南政策を続ける可能性があるということだ。米朝対話と南北関係の膠着の過程で、与正氏が対南・対米業務を掌握し、対南省庁である統一戦線部と対米外交実務を行ってきた外務省の役割が萎縮しているという。
●労働党幹部「私たちが誤り元帥様がぬかるみを歩かされた」
労働党の主要幹部らは、正恩氏が第6回全員会議で異例にも経済政策の失敗を認めた翌日、失敗の責任は自分にあるとして自己批判した。
国家情報院は、正恩氏が与正氏や軍部、経済分野の幹部に委任統治している背景に、「政策の失敗に対する責任を回避してリスクを分散するため」と指摘した。国家情報院の分析が合っているなら、党幹部が先を争って責任を認め、忠誠競争に出たのは、北朝鮮住民の不満が正恩氏に集中することを阻止するための宣伝戦というわけだ。
21日付の北朝鮮の労働新聞の1面には、経済政策の失敗に対する「反省文」が掲載された。集中豪雨で莫大な被害を受けた黄海北道(ファンヘプクト)のパク・チャンホ道党委員長は、「(正恩氏の全員会議での演説を聞いて)良心の呵責を禁じ得ない」とし、「道の責任を負う者として、事をまともに処理できず、元帥様が洪水で苦労する人民に対する心配で、ひどいぬかるみを歩かせてしまった」と反省した。長官級の張吉龍(チャン・キルリョン)化学工業相は、「国家経済発展5ヵ年戦略の目標実行で、経済発展の二軸を成す化学工業部門が本来の役割を果たすことができなかった原因は、化学工業省が戦略的見識と計画性なく事業したことにある」と述べた。
權五赫 hyuk@donga.com