ザトウクジラは遠くにいて、私たちはここにいる。しかし、この詩を読めば、分かるようになる。あのくじらは、うちの近所にも住んでいるなあ。近くには隣家や私の中にも住んでいるね。クジラが住んでいるところを海と呼ぶなら、海は遠くない。それは私たちの心の中にある。
クジラは子を産もうと、六千五百キロの海を泳いだという。私は子供を育てるために、5千200日間も世の中を歩き回った。クジラと私たちは、広くて険しい世の中を、守りたい心と守るべき存在を抱き、長い間さまよっていた。見えるものだけがすべてではないことに気付く。世の中もここがすべてではないということを理解するようになり、ここに長くいられないという事実や、いつか別れるようになるという事実も学ぶことになる。
「ザトウ」という単語を「心」または「魂」に置き換えて読めば、クジラと私たちはもっと近くなる。「自分の目で見ることはできないが、そのザトウがないということはない」。こうした一節は「私たちの目で見ることはできないが、心がないということはないということ」に変えて読むことができる。ザトウなどを理解するようになれば大人鯨になると、親鯨は言う。鯨も知っている事実を、私たちはどうしてしきりに忘れるのか。目に見えないことこそ大切なのに。
文学評論家