「済州(チェジュ)4・3事件を扱った小説、死から生に渡る小説、限りない愛についての小説、全て合っています。一つを選ぶなら、限りない愛についての小説だと言いたいです」
小説家の韓江氏(ハン・ガン、50)は7日、ユーチューブで配信されたオンライン記者懇談会で、9日に出版される長編小説『お別れしない』(文学トンネ)についてこのように話した。
「愛であれ哀悼であれ、最後まで抱いて進むという決意をタイトルに込めました。新型コロナ禍の状況で文を書き、切実につながりたいという思い、外に伸びていきたいという思いがこの小説を書くうえで影響を与えました」
韓氏が長編小説を出すのは、2016年『白い』(文学トンネ)以来5年ぶり。韓氏は2016年に『菜食主義者』でマン・ブッカー賞国際部門を受賞した。韓氏は、「14年6月に最初の2ページを書き、18年に続いて書き始めた。完成できるのか疑問を抱いた。長い時間書いたので、本が私の手にあることに感謝し、胸がいっぱいになる」と話した。
韓氏が、済州島4・3事件を扱った新作を書くことができたのは、1990年代後半、済州道で数か月間暮らした時、家主のおばあさんが4・3事件の虐殺について話したことを思い出したからだ。
新作で、小説家のキョンハは、友人インソンに頼まれ、済州にやって来る。インソンの家に到着したキョンハは、幻想の中で4・3事件の被害者であるインソンの母親に会う。韓氏は、「私が作品の素材を決めるが、ある場面が浮び上がり、もっと知りたいと思うようになる」とし、「済州であった民間人虐殺について書く計画はなかったが、この小説を書くことになった」と話した。
小説の導入部には、インソンの指が切断される事故と治療の過程が描かれる。韓氏は、「指が切断された後に切れた神経が離れてはいけないので、指を傷つけて血が出るようにして治療する。そうしなければ切れた箇所は腐る」と話した。韓氏は、「苦痛だが、患部に針を刺すことで、指が生きていられる」とし、「私たちが抱くことができないことを抱く時、苦痛は伴うが、それが死の代わりに生につながる道」と話した。
新作は、韓国近現代史の悲劇を扱っているという点で、5・18民主化運動を扱った韓氏の長編小説『少年が来る』(チャンビ・2014年)を想起させる。特に新作で、5・18民主化運動関連の小説を書き、悪夢に苦しむキョンハの姿から韓氏の影が投影される。
「キョンハのすべてが私の姿というわけではないが、『少年が来る』を書いた後、悪夢を見たのは事実です。『少年が来る』を書いて、生に死が入り込む経験をしたなら、新作を書いて死から生に渡る経験をしました。この小説は、苦しみから私を救ってくれました」
イ・ホジェ記者 hoho@donga.com