「犬の運命が幸運」とは、いい飼い主に会って豪華で平安に暮らす犬をうらやむ時に使う言葉だ。人生が苦しい時に、愚痴る言葉でもある。19世紀のフランスの画家アルフレッド・ド・ドルーの絵には、誰もがうらやむような犬が登場する。腹一杯食べて飲んだ後、リラックスして休息を取っている姿がまさに人のようだ。画家はなぜ犬を人間のように描写したのだろう。特定の人に対する風刺だろうか。
有名建築家の息子に生まれたド・ドルーは、画家の叔父のおかげで、13歳の時からロマン主義美術の巨匠テオドール・ジェリコーに絵を学んだ。師匠の影響で動物に関心を持つようになったジェリコーは、馬の絵や動物に例えた二重肖像画で大きな人気を得た。乗馬や狩りを楽しんだナポレオン3世の寵愛を受け、犬好きだった英ビクトリア女王に絵の注文を受けるほど、動物画家として大きく名を馳せた。
この絵は、画家としての名声が絶頂に達した47歳の時に描かれた。画面の中には、ふっくらとしたパグ1匹がゆったりとした安楽椅子に座っている。後ろ足は大きく開き、前足はおとなしく寄せたまま、椅子の背もたれに楽にもたれかかっている。青い布をかぶせたテーブルの上には、半分ぐらい飲んだグラスと食べかけのおやつが置かれており、読みかけの新聞「ル・フィガロ」が床に落ちている。一目して見ても、裕福で教養あふれる犬だ。お腹いっぱいで、食後の眠気にまどろんでいるような気もするし、昼間酒に酔っているような気もする。普通の人の運命よりよく見えて、うらやましくさえある。実際、犬が新聞を読み、酒を飲むことはできない。身分の高い権力者や富裕な知識人に例えた二重肖像画に見える。
貴族と王族の後援を受けている画家が、特定権力者を風刺して描くことは容易ではなかったはずだ。ド・ドルーは、パグの足元に黒い猟犬ハウンドを自分の代役として描き、こう尋ねているようだ。「権力者よ、なぜ世の中を勉強しないのか。なぜ民のために働かないのか。温かくてお腹いっぱいの生活に満足すれば、犬と何の違いがあるのか」と。