メディチ家は才能ある芸術家らを後援し、イタリア・ルネサンス美術の黄金期を率いた。特に、サンドロ・ボッティチェッリは、メディチ家の後援を最も多く受けた画家だった。今年1月、彼の肖像画1点が、ニューヨーク・サザビーズのオークションで9220万ドル(約1089億ウォン)で売れて話題を呼んだ。いったい絵の中の男は誰で、なぜそんなに高価に売れたのだろうか。
肖像画の中のモデルは、メディチ家の若い男性と推定される。ボッティチェッリのもう一つの絵「国父コジモ・デ・メディチのメダルを持つ男性の肖像」と構図や表現方法が似ているからだ。男性が着ているチュニックは、聖職者の服のように単純で素朴に見えるが、かなり高価な衣装で、青色の生地は当時のフィレンツェではとても手に入らないものだった。富と権力を握るメディチ家でなければ考えられない高級衣装である。男性が手にした円形メダルの中には、14世紀イタリア最高の画家とされるバルトロメオ・ブルガリーニが聖者の姿で描かれている。
メディチ家の青年は、派手な衣装を着て富を誇示することも、男性性を強調したイメージで権力と力を表すこともできただろう。本を持って知識人であることを強調することもできたはずだ。しかし、彼の選択は、絵を持った芸術後援者の姿だ。画家は、当時フィレンツェの上流社会が目指していた「美しい理想」を、この肖像画に込めようとしたとみられる。芸術を知る教養人だけが、フィレンツェの支配者になれることを暗示しているのだ。
ボッティチェッリは、神話や聖書の物語を盛り込んだ大型絵画をたくさん描いた。肖像画は10数点しか残っていない。この絵が高い理由は、ルネサンス黄金期を代表する画家の名声、彼の肖像画という希少性、時代の理想を盛り込んだテーマ、メディチ家の男の肖像だからだ。しかも、ほぼ40年間、ボッティチェリの傑作で世界の主要美術館に展示されたばかりで、市場に出たこともなかった。富豪コレクターたちの所有欲を刺激するのに十分な名作だ。