諌官でもないのに分不相応に上訴したという罪名で詩人は長安から江州司馬に左遷された。南下する船の中で灯皿のあかりが消えそうになるまで詩人が読みふけったのは元稹の詩集。詩と文章をなぜ書いて、どのように書かなければならないのかについて、互いに知音を自任するほど意気投合した間柄なので、彼が元稹の詩集を手にしたのはおかしなことではない。目の痛みも忘れて夜が明けるまで読み続け、灯を消しても眠ることができない。元稹の詩編を再び味わっているのか、あるいは左遷先に向かう自身の境遇を憂いてか、船にあたる波の声を聞いて静かに闇を守っている。
詩人が強いて元稹の詩集を読もうとした理由はほかにもある。元稹が自分より数ヵ月前にすでに長安から追放され、泗川の地方に左遷されたので、同病相憐れんだのだろう。以心伝心の意思疎通のためだろうか。白居易の左遷の知らせを聞いた元稹も詩を一首詠む。「あかりを失った灯火がゆらめき、この夜に聞こえてくるあなたの左遷の便り。驚いて死の病にある体を起こすと、闇の中の風雨が押し寄せる冷たい窓」。一人は、船にたたきつける波の音が、一人は冷たい窓に打ちつける風雨が心を乱す。遠く離れた2人がそれぞれ独り言のように言った言葉だが、まるで対座して話を交わすかのように2人の心が重なり合う。2人を行き交う心の中の和答、その向こうに互いの傷を癒そうとする感動の友愛がゆらめく。