幼少期の痛い思いは誰にもある。厳格な両親、学校でのいじめ、親友との別れ…。今はぼやけているが、あの時は世の中が崩れそうに心が揺れ動いた経験だ。詩人でありエッセイストとして活動してきた著者が初めて発表した長編小説は、おぼつかなかったが美しかった幼い頃の記憶を探っていく。
主人公の7歳の少女「ヨルム」は、敏感な感受性に恵まれている。両親は結婚しないままヨルムを産み、父は生まれたばかりのヨルムを、自分の姉に任せた。ヨルムは、そうやって厳しい叔母の手で育てられた。父が再婚してできた継母は、ヨルムに「お前はブスだ」「お前はその服が似合わない」などと厳しい言葉を平気で吐き出して傷つける。父と継母の間で腹違いの弟「ハクジャ」まで生まれ、ヨルムは嫉妬心に加えて危機感まで感じながら生きていく。
そんなヨルムの支えになってくれるのは、学校の友人「ルビ」だ。ルビも、ヨルムのようにおぼつかない少年期を過ごしている。一人でルビを育てるルビの母親は、どこに飛ぶか分からない活火山のような人だ。結局、ある日の未明、ルビを置いて家出をする。どこからも完全な所属感と愛を感じることができなかったヨルムとルビは、お互いに気づいて親友になる。「トイレが100個ある100坪の家に住んでいる」のように、平気ででたらめな嘘をつく性格のため、ルビはいつも学校でからかわれている。そんなルビに対してヨルムは、「ルビは瞬間を彩ろうとした。嫌われても、自分の欲望に率直だっただけで、他に下心があったわけではない」と説明する。
本を読みながら「ルビ」のような友人がふと懐かしくなるのは、作家の細密な描写のおかげだ。ルビと争った後、理由もなく吐いて鼻血を流しながら痛かった苦痛の瞬間、初めて手を合わせてピアノの鍵盤に手を乗せた時のあの震え。作家の繊細な筆力を通じて、子供の時の記憶が五感で蘇る経験ができるだろう。
金哉希 jetti@donga.com