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できることが祈りしかない状況になったら

できることが祈りしかない状況になったら

Posted August. 24, 2022 09:17,   

Updated August. 24, 2022 09:17

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今月上旬にこの世を去った英国の作家レイモンド・ブリックスは、子供たちが好きな童話の絵本を多く残した。その中でも最高は、文がなく絵だけで感動的な話を繰り広げる「スノーマン」だ。ところが、彼は子供たちのための話だけで満足できなかったのか、大人たちのためのグラフィック小説も残した。1982年に出た「風が吹くとき」もその一つだ。図書館では幼児向け図書に分類されるが、子供たちに読まれるにはあまりにもぞっとする話だ。

ロンドンに住んでいた夫婦は、夫が引退すると田舎に引っ越した。閑静な田舎で老年を送るためだった。のどかでとても良かった。ところが、英国とロシアの間で核戦争が勃発しようとしている。夫婦は政府が発行した生半可な指針書に従って、クッションや本、取り外した扉を利用して屋根裏部屋を屋内退避所にする。窓ガラスに白いペイントも塗り、非常食も用意する。その間、遠い空と海と陸地から発射された核ミサイルが、ロンドンに落ちる。老夫婦はロンドンを離れて田舎に来たことを幸いに思っている。

純真な考えだ。田舎だからといって自由なわけではない。風が放射能を運ぶ。「風が吹くとき」というタイトルで、風は放射能を運ぶ致命的な風だ。豆とレタスは枯れて、リンゴの葉はすべて落ち、青い草地は廃墟になる。老夫婦は放射能にさらされる。頭痛がして嘔吐して血が出て髪が抜け始める。余生を田舎の家で平和に過ごそうとした老夫婦は、少しずつ死んでいく。平和に死ぬ権利まで剥奪されたのだ。今や彼らに残されたのは、青い草むらで休ませてほしいと祈ることだけだ。

1980年代の冷戦状況で発表されたブリックスのグラフィック小説は、逆説的にも21世紀を生きる私たちの物語だ。核戦争に対する恐怖と恐ろしさ、不安は私たちの日常になった。老夫婦の場合のように、いつか私たちにも残されたものが祈りしかない状況になったらどうなるだろうか。「青い草むらで休ませて、穏やかな水辺に導きなさい」という祈りしかない状況になったら。