若い士人の南楚材は、交友と見聞を広めたいと思い、妻の薛媛(ソル・ウォン)を残して旅に出る。ある地方の太守に会ったが、太守はこの男の風采と才能に惚れて、婿にしようとした。どんな気持ちだったのか、南楚材はこの提案を受け入れることにし、侍童を故郷の家に送り、自分の本や琴などを持ってこさせた。侍童が来て、夫が大事にしていた物を持って行こうとすると、妻は夫の心変わりを直感し、自分の肖像画を描いてそこに詩を一首付け加える。
自分の顔を描こうと鏡を手にすると、鏡も冷たいのだが、心から苦い思いがして冷たさを覚える。鏡に映るむくむくとした顔、そしてまばらになった耳元の髪は、長い別れがもたらした傷跡だろう。着飾ることなんて全て無駄だという自暴自棄の気持ちで、妻は絵描きを続ける。私が涙で歳月を送ることは描けるが、物思いに沈んでいる心の中だけは表現することができません。もし私の顔を完全に忘れたのなら、その時は絵をもってでも思い出してください。夫が恋しいからといって、妻としてとやかく問い詰めることなどできなかった時代。夫は妻が涙を飲んで描いた肖像画と詩を受け取っては、妻のところに駆けつけた。夫の心変わりを恨む代わりに、完全には忘れないでほしいというお願いの言葉から、妻の温かい心遣いに気づいたためではないだろうか。
成均館(ソンギュングァン)大学名誉教授