20世紀初頭、フランス・パリ、パブロ・ピカソのモンマルトルの作業室は、ボヘミアン芸術家たちの憩いの場所だった。名だたる芸術家たちが出入りしていた。マリー・ローランサンもその中の一人。ギヨーム・アポリネールの詩「ミラボー橋」の主人公として有名だが、ローランサンは男性が支配する美術界で独自の画風で認められ成功したごく少数の女性の一人だ。
パリで私生児として生まれたローランサンは、陶器工場で陶板画を学び、画家の夢を育んだ。1907年、パリで初個展を開いた時、ピカソの紹介でアポリネールに出会った。二人は恋に落ちたが、5年で別れた。ドイツ人男爵と結婚したが、第一次世界大戦の勃発で、数年間亡命生活を余儀なくされた。結婚生活も幸せではなかった。結局、離婚して1921年にパリに戻り、創作活動に専念した。20年代と30年代のローランサンは全盛期を享受し、商業的にも大いに成功した。キュビスム(立体派)とフォーヴィスム(野獣派)に影響は受けたが、真似はしたくなかった。女性と動物が登場するパステルカラーの幻想的な絵で、自分だけの独創的な画風を開拓した。
この絵は、ローランサンが追求した平和な女性の世界を圧縮的に示している。黒い瞳の二人の女性が牧草地の上に座っている。カーテンのため演劇舞台のようでもある。ピンクのスカートを着た右の女性はギターを弾いており、青いドレスを着た左の女性は遠くを見ている。二人とも何か思いふけっているようだが平穏に見える。中央の灰色の犬が二人の間をつないでいる。彼女たちは温かく平和な楽園に来たようだ。
ローランサンが描いた平和の世界に男性はいない。女性と動物、音楽があるだけだ。確かに、自分を傷つけたのも、戦争を起こしたのも男だと考えたのだろう。実際、ローランサンは女性を愛し、女性芸術家を支援した。私生児であり両性愛者であることを明らかにし、女性同性愛を描いた作品を堂々と発表した。独立して自由な人生を生きた真のボヘミアンだった。