「コール政権16年間の後、国は麻痺した。与党は血を流し、スキャンダルで乱れ、経済と労働市場、社会保障システムは深い危機に陥った。当時ドイツは『欧州の病人』だった。その時、東ドイツ出身のある女性政治家が現れ、西ドイツの転換点となった」
アンゲラ・メルケル前ドイツ首相(68)。
16年間首相に在任し、ドイツだけでなく西欧社会をリードした指導者。「世界で最も影響力のある女性リーダー」という賛辞がよく似合うメルケル氏は、昨年自ら首相の座を退き、一時代を締めくくった。本の副題のように『ドイツを変えた16年の記録』が出てくるのは、当然の流れかもしれない。
ドイツの有名ジャーナリストである著者が見て、メルケル氏は他の政治家とは大いに異なる。華やかな演説も強力なリーダーシップもないが、強い忍耐と誰とでも妥協できる柔軟性をもとに国を率いた。ある政策を扱う時、専門家の意見を絶えず聴いて反映させる姿勢は特に際立った。
運もよかった。想像してみよ。南北が統一し、無名の北朝鮮の女性科学者が韓国主導の社会で大統領になる可能性がどれほどあるだろうか。しかし、当時のドイツの政界は、東ドイツ出身の女性という非主流の新人を「マスコット」と見なしてメルケル氏を大胆に登用した。ただ彼らは知らなかっただけだ。メルケル氏は「狡兎死して走狗烹らる(敵が滅びたあと、功績のあった者が邪魔にされ、殺されてしまうことのたとえ)」ような人物ではなかった。穏やかな笑顔の裏に多くの政敵を除去する決断力、政治的基盤がない状況を逆手に取って優位に立つ鋭利さも備えていた。
むろん著者はただ良い評価だけをするのではない。熟考の余り決定はいつも遅い方だった。状況によって立場を頻繁に変え、原則がなくみえた。「直選制だったら再選も不可能だっただろう」と指摘されるようにビジョンを示すカリスマも足りなかった。しかし、私たちは知っている。愚かな選択と頑なさときらびやかな言葉が、これまでどのような結果を生んだのか。さらなるアンゲラ・メルケルが世に出なければならない理由だ。
丁陽煥 ray@donga.com