比べものにならないほど力の強い相手と戦う状況は「ダビデとゴリアテの戦い」に例えられる。聖書に出てくる羊飼いの少年ダビデは、槍と鎧で武装した巨人ゴリアテと丸腰で戦って勝った。少年が持つ武器は、信念と5つの石だけ。巨人の頭に石が当たったお陰で勝利を手にすることができた。
弱者が強者に勝つというダビデとゴリアテの物語は、西洋芸術で人気のテーマだった。多くの芸術家が作品に残したが、中でもミケランジェロのダビデ像が最も有名だ。ルネサンス芸術の傑作とされるダビデ像は、今日の目で見ても驚くほど型破りだ。フィレンツェのシニョーリア広場にダビデ像が建てられたのは1504年。ミケランジェロが29歳の時だった。ミケランジェロはカッラーラ採石場から持ってきた巨大な石を切って削り、3年で完成させた。ミケランジェロの20代の作品だ。高さはなんと5メートルを超える。当代の彫刻家たちが作ったダビデ像は、せいぜい実際の人の身長ほどだった。
ダビデを描いた方式も型破りだ。青年彫刻家は、理想化された人体の美しさを強調するために、大胆にもヌードを選んだ。多くの芸術家は、ダビデがゴリアテを倒した後に首を討ち取った姿、つまり勝利した場面を描いたのに対し、ミケランジェロは戦う前の姿を描いた。投石具を肩に担いだ少年は、恐怖を押し殺して勇気を出している。しわを寄せた眉間、ぎゅっと結んだ唇、引き締まった体の筋肉、緊張した少年の姿は躍動感みなぎる。ダビデ像は公開されるやいなや国を救った愛国心の象徴、自由守護の象徴となった。シニョーリア広場の現在のダビデ像はレプリカだ。1910年に置き換えられ、オリジナルはアカデミア美術館にある。
ダビデは聖書の中の人物にすぎないが、時代を超えて愛されている。理由は、ダビデが持つ物のない弱者たちの英雄だからだ。ゴリアテのような強者が支配する世界で、弱者たちも勇気を出して挑戦せよとの希望のメッセージを伝えるからだ。