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うつむく男

Posted January. 19, 2023 08:37,   

Updated January. 19, 2023 08:37

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「考える人」をテーマに作品をつくったのはロダンだけではなかった。ロダンと同時代を生きた米国の画家、トマス・エイキンズも同じタイトルの肖像画を描いた。縦長のキャンバスには、実物大の男が描かれている。黒いスーツを着た男は、うつむいて視線を下に向けて立っている。一体彼は誰で、何を考えているのだろうか。

フィラデルフィア出身のエイキンズは、フィラデルフィア美術アカデミーで学んだ後、生涯の大半を故郷で画家兼教育者として暮らした。人体を直接見て解剖学的に観察して描いた肖像画とヌード画で有名だった。エイキンズの肖像画は、モデルを理想化せず、率直で客観的に描いたので、依頼人に断られることが多かった。顧客がほとんどいなかったので、主に友人や家族、弟子をモデルに描いた。この絵の男も友人であり、義妹の夫のルイス・ケントンだ。端正な着こなしのケントンは何もない部屋で立っている。両手をズボンのポケットに入れ、うつむいて深い思いに浸っている。一般的に肖像画の中の貴族や中産層の男性は前を見つめるものだが、ケントンは自らを省察している様子だ。知的だが孤独な米国中産層男性の心理を代弁する肖像画と評価される理由だ。

実際、ケントンの人生について知られていることはほとんどない。フィラデルフィア出身の穀物商の息子として市の会計を担う書記だったという記録だけがある。ケントンがエイキンズの義妹と結婚したのは1899年5月。おそらくこの絵は2人の結婚祝いとして描かれたのだろう。画家は夫婦になった友人と義妹の幸せを祈って贈ったが、2人の結婚生活は全く幸せではなく、短く終わった。これは、ケントンの暴力性によると推測される。

絵の元のタイトルは「ルイス・ケントンの肖像画」だった。「考える人」というタイトルは、画家の死後にエイキンズの妻が加えた。自分の妹を不幸にした男にロダンの傑作と同じタイトルを付けるとは!彼が一生うつむいて人生を省察することを望んだのだろうか。