北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長(写真)が、10、11日の2日連続で在韓米軍の偵察機活動に対する非難談話を出した中、異例にも「大韓民国」と呼び、その意図に関心が集まっている。北朝鮮は通常、韓国を「南朝鮮」「南朝鮮傀儡」などと呼んできた。これに対し、政府内外では、北朝鮮がもはや韓国を同じ民族や統一の対象ではなく、「別の国家」と見るという立場を公式化したのではないかという見方が出ている。対南攻撃用の戦術核兵器の運用を公言した北朝鮮が、韓国を「敵対国家」と規定し、今後の軍事的挑発を正当化する考えを明らかにしたという分析もある。
●韓国を「敵対国家」と規定し、核脅威の大義名分づくりという分析も
与正氏は11日の談話で「《大韓民国》軍部のごろつき」、前日の談話では「《大韓民国》の合同参謀本部」「《大韓民国》の輩(やから)」と表現した。特に、「大韓民国」の前後に、北朝鮮が通常、強調したり批判する目的で使用する二重山括弧(《》)までつけた。何らかの目的や意図が込められた表現であることを事実上示唆したのだ。政府消息筋は、「北朝鮮は過去にも南北関係において『敵対的国家対国家戦略』を使用したことはあった」としながらも、「『大韓民国』と言及したことはなかった」と話した。
韓国と北朝鮮は1991年に締結した南北基本合意書で、「国と国の関係ではなく、統一を目指す過程で暫定的に形成される特殊関係」であると合意したことがある。しかし、北朝鮮は2021年の第8回労働党大会で党規約を改正した。政府内外では、北朝鮮がこの時からすでに国家対国家戦略を本格化するための準備作業に着手したと見ている。当時、北朝鮮は「全国的な範囲で民族解放民主主義革命課業を遂行」という表現を削除する代わりに、「共和国北半部で豊かで文明的な社会主義社会を建設する」などの文言を挿入した。南北を統一国家ではなく、「国家対国家」として見るという認識を明らかにしたのだ。南北対話の象徴である祖国平和統一委員会(祖平統)も第8回党大会を境に姿を消した。労働党の対南書記のポストもこの時期に消えたとされる。
政府消息筋は、「南北は関係が良い時も悪い時も30年以上にわたってこのような特殊性を認め合ってきた」とし、「南北間でこのように維持されてきた視点自体が揺らいでいる」と話した。
北朝鮮が今回の談話を機に韓国を同じ民族という概念ではなく、別個の「敵対国家」として明確に規定し、これを名目に今後、強力な軍事的挑発に出るという懸念も出ている。統一研究院の洪珉(ホン・ミン)北朝鮮研究室長は、「北朝鮮が南北関係を国家対国家として捉えるというのは、事実上、戦術核兵器の使用を正当化するという主張」とし、「韓国を狙った戦術核配備は既存の民族論理と相反するため、韓国に対する態度から変えようとしているようだ」と分析した。
与正氏は談話で、在韓米軍の偵察機活動を「わが軍と米軍の間の問題」と主張した。韓国を排除し、米国だけを対話の相手として認めるという意図まで示したのだ。
●現代グループ会長の訪朝拒否の時も、「祖平統」ではなく「外務省」が発表
北朝鮮は、現代(ヒョンデ)グループの玄貞恩(ヒョン・ジョンウン)会長が訪朝を推進すると、これまで南北間の事案に対応してきた労働党統一戦線部や祖平統ではなく、外交関係を担う外務省を通じて拒否の意向を明らかにした。当時、外務省は、会長一行の訪朝を「入境」ではなく「入国」と表現した。これを受け、韓国を外国として扱うという意図を示したという解釈も出された。
与党「国民の力」の太永浩(テ・ヨンホ)議員は同日、フェイスブックに「北朝鮮が南北関係を民族から国家間関係に変更させようとしているのではないかと疑われる状況が相次いで発見されている」とし、「統一部は金氏兄妹に速やかに公開質問書を送り、金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)も守ってきた南北関係の枠組みを変えようとしているのか、立場を明らかにするよう公開的に求めるべきだ」と主張した。
申圭鎭 newjin@donga.com