今年、日本アカデミー賞で8冠に輝いた映画「ある男」が30日公開される。名前とアイデンティティについて、哲学的な質問を投げかけるミステリー物だ。主人公の城戸役を演じた妻夫木聡(43)は、「この映画が私の人生を救ってくれた」と話した。
「ある男」は、不意の事故で亡くなった夫の名前をはじめ、過去まで、全てが他人のものだったということを知った妻の里枝(安藤サクラ)が、弁護士である城戸(妻夫木聡)に夫の過去を調査してほしいと依頼して繰り広げられる物語だ。第70回読売文学賞を受賞した平野啓一郎の同名小説が原作だ。
映画は、日本の社会問題の一つである「蒸発」(自発的失踪)を題材にしている。一夜にして名前と身分、家族と職業など、自分のすべてを捨てて新しい身分で生きる人の話を扱う。
映画の中で身分を変え、まんまと新しい人生を送った大祐(窪田正孝)の行跡を追う城戸も、やはり「在日コリアン3世」という隠したいアイデンティティを持っている。息子に優しく接していながらも些細なことに激しく怒ったり、表向きは団らんな家庭に見えるが、妻と何かずれている複合的な姿をしている。
韓国を訪れた妻夫木聡は25日、ソウル広津区(クァンジング)のロッテシネマ建大(コンデ)入口店で開かれた記者懇談会で、「(小説の)原作者が語った『分人主義』というものがある。人は相手によって様々な姿に変わる多様な顔を持っているという意味で、城戸はそのような特徴を持つ人物だ」と話した。彼は、「私たちに多様な姿があると認めることが、私たちが人生を違った目で見られる機会を与える」とし、「そのような考えが私を救った」と話した。
「ある男」は、3月に開かれた第46回日本アカデミー賞を総なめした。最優秀作品賞と監督賞、最優秀主演男優賞など計8部門で受賞した。昨年、第27回釜山(プサン)国際映画祭の閉幕作に選ばれた。
崔智善 aurinko@donga.com