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「金にならない」ユニークな基礎研究も助成すべき理由

「金にならない」ユニークな基礎研究も助成すべき理由

Posted September. 08, 2023 08:32,   

Updated September. 08, 2023 08:32

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神奈川県横浜市に「大隅基礎科学創成財団」という公益財団がある。ホームページで公開している研究助成の基準は3つ。先見性と独創性に優れた基礎研究、国による助成がなされにくい基礎研究、定年などで継続が困難となる基礎研究。つまり、「金にならない」ユニークな研究を助成するということだ。

同財団を2018年に設立した大隅良典・東京工業大学名誉教授を昨年1月にインタビューし、その理由を尋ねた。「面白い研究をしているが、研究費が足りない人を助ける。挑戦する人を支援するのが趣旨」という答えが返ってきた。「政府は成果を出せる有望な分野を選んで助成する。しかし、科学は1千万円を投入しても、必ずしも1千万円の成果に結びつかない」と、政府の支援策に対する不満も吐露した。

大隅氏は、酵母細胞を利用した「オートファジー(自己捕食)」の研究で2016年にノーベル生理学賞を単独受賞した日本の生物学の権威だ。東京特派員時代、自然科学分野のノーベル賞を受賞した日本人3人にインタビューしたが、彼らの主張が妙に一致した。要約すると次のようになる。

まず、「成果が出そうだから研究を助成しよう」というやり方では科学を育成することはできない。科学では失敗の経験も積み重なれば知識になる。決して無駄ではない。ノーベル賞受賞研究も意外な「偶然の発見」から生まれることが多い。

第二に、基礎科学への投資はすぐに成果として現れない。しかし、宇宙の起源を明らかにするなど、人類の基礎知識を豊かにしてくれる。一国が持つ能力の総合版が基礎科学だ。実用化まで100年かかるかもしれないという覚悟で取り組まなければならない。

第三に、日本がノーベル賞強国になったのは、1945年の終戦後、「廃墟から立ち上がるには科学に勝負をかけなければならない」という社会的合意があったからだ。当時始まった研究が今のノーベル賞につながっている。

韓国政府が先月発表した2024年度予算案を見て、日本のノーベル賞受賞者の過去のインタビューを思い出した。政府は、来年の研究開発(R&D)予算を今年より16.6%削減した。基礎研究予算は6.2%の削減となった。科学界の研究費カルテルを打破し、核心戦略技術を重点的に育成するという政府の説明に同意する。しかし、予算削減という利益より、中長期的に国家競争力を低下させる悪影響が大きいと考える。

大隅氏は1970年代から酵母研究に没頭した。当時、他の科学者たちは酵母にあまり関心を持たなかった。しかし、今では多くの科学者がオートファジー現象に注目している。がん、アルツハイマー病のような老人性疾患を解決する鍵になり得るからだ。基礎科学を約50年間研究してきた結果、今や実用的な成果が期待できる段階まで到達したのだ。

大隅氏とのインタビューで、「政府が集中投資する有望な科学分野と、大隅基礎科学創成財団が支援する新しい科学分野のうち、どちらがノーベル賞を受賞する可能性が高いか」と、やや突拍子もない質問を投げかけた。当時、新聞に紹介しなかった答えをそのまま引用する。「非常に難しい問題だ。私のケースを見ると、オートファジーという新しい分野を開拓するのにそれほど多くの金は必要なかった。様々な分野で様々な新しい研究をするためには、ある程度の助成が必要だ。『効果がありそうだから支援する』というのでは科学は育たない。人間の知的好奇心を満たす基礎研究まで支援するほうが、ノーベル賞受賞の可能性を高めることができる」。