「イエスの形が残っているという『トリノの死に装束』が想像すらできないほどの価値を持つ理由は、社会がその布に、他の世界に向けられた信頼という特別な価値を付与したためだ。ある意味で、トリノの死に装束は、最近なかなか理解できないといわれるデジタルアートのような仮想オブジェだ。宗教的想像力で入場できる世界とWiFiで入場できる世界は、思ったより似ているかもしれない」
最近、流行っているメタバースに関して、人文学的に調べた本だ。メタバースと言えば、オンラインゲームの一種程度で漠然と理解することが多い。しかし、著者は、人類が胎古から言語と想像力だけでメタバースを創造してきたと話す。
約1万年前に作られたトルコの新石器遺跡「ギョベクリ・テペ」は、メタバースの原型だ。1000年にわたって巨大な岩を運んで作ったこの遺跡には、サソリと吠える猛獣、羽ばたくワシと頭のない人間の彫刻など、神話的象徴があふれている。考古学者たちは、人々がこの構造物を作るために協力したことで、新石器革命が繰り上げられたと見ている。ピラミッドやオリンパス神殿なども同様だ。今日のメタバースは、人類が初めて存在した時から持っていた、現実にない世界を創造しようとする本性の最新版だという。古代も、仮想世界は人々が事件とアイデンティティ、規則、事物が実在すると信じたために存在し、現実の人間社会と互いに価値を持続的に伝達し、個人と社会の富と満足感、意味を増進させた。自然に今日の良いメタバースの条件も見つけることができる。「ユーザーの内部の動機と自己決定性を充足させ、他人と十分な相互作用が可能で、現実世界と価値交換が可能な」メタバスだ。
著者は、21世紀中にコンピューターと脳神経が直接つながるポストヒューマン社会が登場し、人は肉体の限界を越えた知覚力を持つようになると見ている。その時は、コンピューターがシミュレーションを行った、現実よりさらに精巧な数千種類の仮想世界の中で多彩な暮らしを並行するだろうという予想だ。グローバル仮想現実のソフトウェア会社「インフラバブル」の共同設立者であり、最高経営者(CEO)が書いた本らしく、メタバースに関して科学的根拠を基に多様な社会的考察が繰り広げられる。
趙鍾燁 jjj@donga.com