「私が初めて韓国に来たのは映画『四月物語』(1998年)の時でした。その後、『Love Letter』(99年)が正式に公開されることになり、もう一度韓国に来ました。私が新人監督だったにもかかわらず、とても熱狂的なファンがたくさんいました。(韓国ファンの愛は)その後、私の人生にとても強力な力と支えになってくれました」
岩井俊二監督(60・写真)は3日、ソウル鍾路区(チョンロク)のカフェで行われたインタビューで、韓国ファンに対する感謝の言葉を述べた。岩井氏は1日に公開された新作「キリエのうた」で韓国を訪れた。主人公が北海道の雪原で叫ぶ「お元気ですか」という台詞が流行語になるほど大きな人気を集めた「Love Letter」をはじめ、「リリイ・シュシュのすべて」(2005年)、「花とアリス」(15年)などで岩井氏は韓国のファンに広く愛されている。
「キリエのうた」は、東日本大震災を経験した後遺症で普段は声が出ないが、歌はよく歌える「キリエ」(アイナ・ジ・エンド)がストリートミュージシャンに生まれ変わる音楽映画。先月開かれた第28回釜山(プサン)国際映画祭に招待された。岩井氏は、「歌う主人公が登場する映画を作りたかった」とし、「主人公が話せないという設定は、東日本大震災を経験して思いついたアイデア」と話した。
岩井氏の故郷は2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県仙台市。岩井氏は震災の翌年、自身が書いた小説をもとに今回の映画を演出した。映画には仙台各地の美しい風景が登場する。岩井氏は、「子どもの頃に住んでいた町が大きな被害を受けたことに衝撃を受けた。震災後、いつかそこを舞台に映画を撮りたいと思った」と語った。
岩井氏が、今回の映画で最もこだわったのは音楽。路上ライブのシーンをリアルに映し出すため、現場の録音をそのまま映画に使用した。岩井氏は、「映画の一部が公演で成り立っているような感覚を与えたかった」と語った。岩井氏ならではの幻想的な色彩と映像美にキリエの歌が加わり、互いに癒されていく青春の姿が美しく展開する。ただ、歌を歌うシーンが長いため、時折流れが途切れる感じは否めない。
キリエを演じたアイナ・ジ・エンドは、日本のアイドルグループ「BiSH」出身のシンガーソングライターで女優。シャウトや悲鳴に近い高音は、キリエの傷ついた心を代弁しているようだ。岩井氏が参加した6曲が映画のOSTに収録されている。収録曲「ひとりが好き」はアイナ・ジ・エンドが曲をつくり、岩井氏が歌詞を書いた。
1991年にドラマ「見知らぬ我が子」を発表し、今年でデビュー32年を迎えた岩井氏は、韓国のコンテンツ界がうらやましいと話した。岩井氏は、「韓国のコンテンツは、ウェブトゥーンを実写映画にする作業が活性化している。日本はアニメに比べて実写映画ファンの数が非常に少なく、予算も少ない。実写映画をもっとよく作れる環境が整っていないのが残念だ」と話した。
崔智善 aurinko@donga.com