詩が丁寧で厳粛な雰囲気なら、詞は軽快で自由奔放だ。詩が士大夫文学の真髄なら、詞は宴会や酒楼の余興のムードを盛り上げる遊興文学の性格が強い。歌詞の属性上、厳粛なメッセージよりも平易でストレートな表現を使った方が訴える力が増すものだ。歌に高踏的な人生の道理や人間の道理などを込めたら、誰が喜ぶだろうか。
この作品は、詞のこのような特徴をよく表している。恋人同士なのか、それとも酒楼の一夜なのかはわからない。絹の帳をまとっていることから、この部屋の主はおそらく女性、熟したみかんの皮をむく綺麗な手の主人公だろう。よく切れる果物ナイフと白雪のような塩を用意していることから、酸っぱくて苦いみかんの上に軽く塩をかけるようだ。吉祥の動物の形をした香炉に香を焚き、笙の笛の演奏まで添えて、そのおもてなしはなかなか趣向を凝らしている。そして、低い声で一言。「夜が深いうえ霜で道が滑りやすいので休んでいって下さい」。配慮のような哀訴のような女性の誘惑に夜はふけていく。宋の徽宗と妓女・李師師の密会シーンを描いたものだという信じがたい夜事の記録もある。