韓国政府が今週初めから、休戦線(軍事境界線・MDL)以南5キロ以内の地域で砲兵射撃などの訓練を順次再開する方針であることが分かった。政府は、韓国に向けて「汚物風船」などを飛ばす北朝鮮の連続的な挑発に対応し、2018年の南北軍事合意の効力を全面停止したのに続き、先月26日には白翎島(ペクリョンド)・延坪島(ヨンピョンド)など北西島嶼でK-9自走砲などの射撃訓練を再開した。続いて今週から陸上でも東・西部の戦線にわたって大規模な実射撃訓練を行う。韓国軍当局は、南北軍事合意以降、訓練を行えなかった複数の射撃場で、近く砲兵射撃を実施する予定だという。
1日、複数の政府消息筋によると、韓国軍は近く京畿道漣川(キョンギド・ヨンチョン)のチョクコリ射撃場、江原道華川(カンウォンド・ファチョン)の七星(チルソン)射撃場、京畿道坡州(パジュ)のストリ射撃場などの付近で砲兵射撃を実施することを決め、訓練の詳細日程などを調整している。南北軍事合意以降、事実上5年余り休戦線以南5キロ以内に位置するこれらの地域では訓練が行われていなかった。事実上破棄された南北軍事合意の第2条は、この地域内の砲兵射撃訓練及び連隊級以上の野外機動訓練を全面中止することになっている。さらに韓国軍は、今月中旬頃まで南北軍事合意で訓練が中止された東・西部戦線付近で野外機動訓練と陸海軍合同射撃訓練も行う方針だという。
政府が先週、北西島嶼の海上射撃後、すぐに陸上でも砲兵射撃と野外機動訓練を再開するのは、汚物風船と弾道ミサイル発射だけでなく、より大きな挑発の動きで緊張レベルを高めている北朝鮮に警告を発する意味があるとみられる。政府消息筋は、「前政権でできなかった訓練を正常化することで、前方地域内の軍事態勢がさらに強化されるだろう」と話した。
軍当局が近く砲兵射撃を再開する京畿漣川のチョクコリ射撃場、江原道華川の七星射撃場、京畿坡州のストリ射撃場付近は、南北軍事合意で5年余り事実上閉鎖された状態だった代表的な軍事訓練場だ。特に、チョクコリ射撃場の場合、17年に作られた翌年の18年に南北軍事合意が締結され、1年ほどしか使用されなかったという。政府消息筋は、「七星射撃場なども射撃ができず、戦術的な訓練の用途でのみ時折使用された」と話した。
北朝鮮は最近、汚物風船や弾道ミサイル発射などの挑発だけでなく、休戦線の北朝鮮側地域付近では地雷の埋設、対戦車防壁と推定される構造物の設置、戦術道路の補強などを行っている。韓国を狙った敵対的な軍事行動を同時多発的に行っているのだ。韓国政府は、地上と海上の事実上の全ての戦線で訓練を再開することで、文在寅(ムン・ジェイン)政権下で訓練の縮小や実施されずに弱体化した前方軍事態勢を強化するのに大きな助けになると期待している。また、連鎖的な挑発を続けている北朝鮮に厳しい警告のメッセージも伝える効果もあると見ている。
● 北朝鮮の長射程砲陣地攻撃にK-9自走砲が動員される模様
6年前の南北軍事合意で陸海上の敵対行為中止区域(地上MDL5キロ以内)が設定された後、韓国軍は22年5月に尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が発足した後も、前方訓練を再開することはできなかった。昨年11月、北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げに対応して南北軍事合意の飛行禁止区域条項(第1条第3項)を効力停止し、空中監視と偵察活動を復元したが、その後もMDL付近の砲射撃や野外機動訓練は政府の方針上、実施できなかった。
これまで管轄区域内の訓練場を使用できなかった前方部隊は、訓練のため南に遠い距離を移動しなければならなかった。さらに、訓練場の閉鎖に伴い、訓練が可能な別の訓練場の需要が高まり、自然と訓練の規模や頻度も減少した。政府消息筋は、「前政権の5年間に続き、現政権でも訓練を目的に作られた訓練場を利用できず、将兵たちの疲労が蓄積され、不満が高まってきたのが事実」と伝えた。
さらに、砲射撃訓練禁止区域に該当しない地域でも、軍が保守的に南北軍事合意を解釈して訓練を行わなかったケースもあった。18年まで年間平均15万発の射撃が行われた軍最大規模の対空射撃訓練場である江原道高城(コソン)の麻次津(マチャジン)射撃場は、MDLから11キロ離れているにもかかわらず、対空射撃訓練に必要な標的機を飛ばすことができないという理由で訓練が中止された。韓国軍は尹政権発足後の22年8月から、ここで対空射撃訓練を正常に実施している。
今週再開される砲兵実射撃訓練には、K-9自走砲などが動員されるという。先月26日、延坪島、白翎島など北西島嶼の射撃訓練に動員されたK-9は最大射程距離40キロ(射程延長弾60キロ)で、前方に配備された北朝鮮の長射程砲陣地などを同時に攻撃することができる。
今月中旬ごろまで、韓国軍は漣川の三和里(サンファリ)付近で装甲部隊などを動員した機動訓練と東海(トンへ・日本海)付近で陸軍と海軍の戦力を投入して合同射撃訓練などを実施した後、これを公開することを検討しているという。特に、軍当局が計画している東海陸・海軍合同射撃訓練には、砲兵戦力はもとより艦艇や空中戦力なども動員されるという。
● 準備が整った対北朝鮮拡声器、北朝鮮の挑発の度合いに応じて再開される模様
韓国政府は、北朝鮮が非常に敏感に感じる北朝鮮への拡声器放送を再開する代わりに、事前に計画された様々な訓練を通じて、北朝鮮への警告及び緊張管理を行う方針だという。拡声器を直ちに稼働する準備は整っているが、北朝鮮の今後の挑発の強さによって再開のカードを取り出すという。政府関係者は、「北朝鮮のグレーゾーンの挑発に強硬に対応するよりも、正常化された訓練を落ち着いて実施するだけでも北朝鮮に強力な警告になると判断している」と伝えた。韓国軍は、北朝鮮からの汚物風船が続いた先月9日、接境地域で対北朝鮮拡声器を一時的に稼働させた。
シン・ギュジン記者 ソン・ヒョジュ記者 newjin@donga.com·