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キャッシュレス社会、大丈夫だろうか

Posted August. 02, 2024 08:59,   

Updated August. 02, 2024 08:59

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「お支払いはカードのみになります」

駐車料金の精算のために財布を取り出し、紙幣を数えると返ってきた答えだ。古い建物の駐車場だが、支払いだけは最近の方式だった。確かに、「お支払いは現金のみになります」という言葉よりも「お支払いはカードのみになります」という言葉が多く聞かれる時代だ。ソウル市内バス4台に1台は「キャッシュレスバス」で運行されている。スターバックスが2018年に導入した「キャッシュレス店舗」は、他のコーヒー専門店でも標準になった。

そのため、銀行の現金自動預け払い機(ATM)がどんどん消えていく。利用者が減り、手数料収入が減ったからだ。2018年以降、消えたATMは1万4426台。先日、大邱(テグ)のある銀行がATM撤退を知らせるために貼った案内文には、住民の手書きの文字がびっしり書かれていた。「お願いだからいてください」、「行かないでください」。

現金を引き出すのも、現金を使うのも難しくなった時代。このまま現金は絶滅するのだろうか。すでに世界各国で現金時代の終わりが見え始めている。

豪州はここ数ヵ月、現金輸送会社アルマガードの破産危機で騒々しい。現金使用量が急速に減少し、アルマガードのトラックに積まれる現金量が激減したため、赤字が雪だるま式に膨らんだ。現物貨幣輸送の90%以上を担うアルマガードが現金輸送事業が持続不可能だと警告したのが昨年末。輸送トラックが止まれば、銀行やATMのどこからも現金が手に入らなくなる。半強制的にキャッシュレス社会に突入するところだったが、豪州の大手銀行と大型マートが5千万オーストラリアドルをアルマガードに緊急支援し、辛うじて急場をしのいだ。

現金は発行と輸送にコストがかかるだけでなく、お釣りのやりとりも不便だ。デジタル決済の利便性は、現金を急速なスピードで追い抜いている。スウェーデンは、モバイル決済サービス「スウィッシュ(Swish)」が広く普及し、世界で最も早くキャッシュレス社会へ向かっている国だ。バスは現金を受け取らないようになって久しく、多くの店ではカードやモバイル決済のみだ。さらには現金を扱わない銀行支店も多く、銀行口座を持っていても窓口で現金で入金するのは難しい。「現金は王」というのは昔の話だ。

しかし、現金の終焉を阻止しようとする国もある。現金決済比率がわずか3%しかないノルウェーが代表的だ。最近、金融契約法を改正し、消費者の現金支払いの権利を明文化した。自動販売機や無認可店以外のすべての販売店は現金を受け取らなければならないと規定したのだ。違反すると罰金を科すことができるという条項も作った。

かつて「2030年キャッシュレス国家」を掲げていたノルウェーは、なぜ政策の方向を変えたのか。どんなにデジタル決済が一般化されても、まだ現金でなければ決済が難しい人がいるからだ。主に銀行口座にアクセスできなかったり、デジタル機器の使用が苦手な弱者だ。電力網、通信網が止まる緊急時に通用するのは現金だけという点も影響した。

モバイル決済の普及率では世界最高の中国も、現金に再び関心を寄せている。現金を使うのが難しい環境が外国人観光客誘致の障害になると考えているからだ。中国の人民銀行は、今年に入って現金拒否店に対する大々的な取り締まりに乗り出した。現金使用環境を改善すると言い出したのだ。「キャッシュレス社会」を強調していた以前とは大違いだ。

韓国にも現金支払いの権利に関する法規定がある。韓国銀行法48条は、「韓国銀行券はすべての取引に無制限に通用する」と規定している。ただし、違反しても罰則規定がないため、宣言にとどまる。現金を公共財と捉え、維持費用がかかっても守るのか。今私たちも議論を始める時だ。