「最近は、じっとしていても冷や汗が流れるほど、体と心に過度な負荷を感じました。その時、ミュージカル『キンキーブーツ』の4回目の出演のチャンスが与えられ、それは私が危機から抜け出す非常口でした」
イ・ソクフン(40)から、意外な言葉が出てきた。グループSGワナビーでデビューした17年目の歌手であり、ミュージカル俳優、司会者として忙しい日常。彼にとって「キンキーブーツ」は、非常ベルの鳴った心を避ける脱出口だった。
5日、ソウル鍾路区(チョンノグ)の練習室で会ったイ氏は、「後悔なく愛すれば未練がないように、2022年の公演を終え、『これ以上はない』と思った。今回の出演を半年以上断ったが、心を変えたのは、私に『チャーリー』が必要だったためだ」と話した。
「キンキーブーツ」とは、廃業の危機に置かれた父親の手作り靴工場を受け継ぐことになったチャーリーが、家業を再び起こそうと努力する成長記だ。愉快なドラッグクイーン(女性の性役割を演じる男性)「ローラ」に出会い、80センチの長さの男性用ブーツを作りながら体験する孤軍奮闘を扱う。2014年の韓国国内での初公演以来、累積観客約50万人を集めたロングセラーのミュージカルで、来月8日から11月10日までソウル龍山区(ヨンサング)のブルースクエア新韓(シンハン)カードホールで10周年記念公演が開かれる。
作品は、チャーリーの成長記であると同時に、イ氏の成長記だ。2018年にチャーリー役でミュージカルデビューした年に息子を得て、以後2年ごとに開かれた「キンキーブーツ」に欠かさず出演した。「私にそっくりの子は、心に愛が溢れています。それを見て『私も元々ああだったのに、どうして何年かの間に敏感で防御的に変わったんだろう』と思いました。脚本をもう一度見ると、チャーリーも今まで行ったことのない道を進みながら敏感になったのです。チャーリーが結局元の姿を取り戻すかのように、私も帰ろうと努力しています」
「キンキーブーツ」を通じて、俳優としての成長も成し遂げた。これまで主役を演じたミュージカルの中で、彼は最も演じにくい役柄としてチャーリーを挙げた。私たちの周りに一人ぐらいいる平凡なキャラクターなので、ローラほど目立ってはならないから難しいという。「歌手として公演する時より、2倍は緊張します」
彼の懸念と違って、観客の間では対立がピークに達するナンバー「Soul of a Man」も、「イ・ソクフンが歌えば説得される」という評価が交わされる。チャーリーが、ローラに厳しい言葉を吐き出しながら短剣を刺した後に続く歌だ。「私はその部分で、悔しすぎて涙が出るのをかろうじて我慢します。世の中に私一人残された気持ちを伝えようと努力しています」
イ氏は、今シーズンが「本当に最後」だと言った。チャーリー役を見事に演じる後輩たちが列を作ったという理由からだ。「健康以外に大きな目標を立ててはいません。今は最高のチャーリーを見せるために、『キンキーブーツ』にのみ専念します」
イ・ジユン記者 leemail@donga.com