面白くも印象的な木片だ。3人の女性、小さな少女、子犬が並んで立っている。真ん中の女性の顔には女性の白黒写真が貼られており、両側の2人の女性は顔がいくつもある。皆目は大きく開いているが口は固く閉じており、箱に閉じ込められたようにポーズが硬くて不自然だ。
「女性と犬」(1963~1964年・写真)はベネズエラ系米国彫刻家マリソルの代表作だ。本名はマリソル・エスコバルだが、「マリソル」と呼ばれる。彼女は1960年代、米国のポップアート運動において重要な役割を果たしたが、1980年代以降はほとんど無名に転落した。
この作品は、中間層の女性たちと子供、犬の姿を模して表現した。木を削って色を塗り、布や剥製の犬、新聞などを組み合わせて作った。マリソルは、自分と周りの人々を作品にたびたび登場させているが、この作品でも同じだ。真ん中の女性が、まさに自分だ。白黒写真の中の顔も彼女だ。余所行きの2人の女性とは違って、彼女はカチューシャにエプロンをかけている。女性たちは周りを見回したり探索したりするが、行動する手がない。ハンドバッグを持った手だけがある。これは消費主義を象徴するものだろう。作品は、女性の役割を消費と家事に限定する社会の固定観念を批判している。
マリソルの作品の中の女性たちは、このように枠に閉じ込められて沈黙する姿で描かれることがあるが、これは幼い頃の悲劇に起因したものと見られる。彼女は裕福な環境で育ったが、11歳のときに母親が自ら命を絶った。そのショックで、二度と口を利かないことを決めた。
マリソルは実際、一生の間必要以上のことを言わなかったという。沈黙を人生の必須要素と考えた。しかし、彼女が作った作品は多くのものを語る。さらに、作家が世を去った後、さらに大きな声を出している。米ペレス美術館は2022年、マリソルとアンディ・ウォーホルの2人展を開くなど、ようやく彼女をウォーホルと同クラスのポップアート作家として再評価している。