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[オピニオン]実話小説の力

Posted September. 29, 2011 08:24,   

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実話小説を英米圏ではファクション(faction)と言う。トルーマン・カボーティが1965年に発表した「冷血」は現代文学におけるファクションの始まりとされる。カボーティは殺人事件に関する新聞記事を読み、大勢の関連者らを取材して小説を完成させた。1970年代後半、米国の黒人作家、アレックス・ヘイリーが6代に渡る自らの家系を追跡して完成させた「ルーツ」は韓国でも広く知られている。この小説を原作にして作られたテレビシリーズの「ルーツ」を見て涙を流した視聴者も多い。「夜の軍隊」「死刑執行人の歌」を書いたノーマン・キングズレー・メイラーも代表的なファクション作家だ。

◆最近世間に衝撃を与えている映画「トガニ」の原作は、孔枝泳(コン・ジヨン)氏が09年に発表した同名小説だ。韓国文学史では珍しく成功した実話小説で、00年から4年間、ある聴覚障害者学校で起きた一連の性的暴行事件を取り上げている。同作品に先立って、孔氏は死刑制度に対する批判意識を描いた「我々の幸せな時間」を、数々の死刑囚とのインタビューを経て04年完成させた。「我々の…」は実話小説とは言い難いが、その時から実話小説を書く準備を着実にしてきたものと見られる。

◆ファクションは文学であると同時にジャーナリズムでもある。となると、孔氏は小説家であると同時にジャーナリストでもあるわけだ。しかも既存のマスコミが疎かにした「ミクロの権力集団内の不正」を掘り起こして暴露した、立派なジャーナリストだ。「サイの角の如くひとりで行け」のような軽薄な小説や、「孔枝泳の修道院紀行」のような本気度の低い体験記で厳しい批判にさらされていた作家が、重量感ある社会批判作家に成長した。

◆しかし、孔氏の政治意識は公正でない。孔氏はある雑誌とのインタビューで、「最初の裁判では法廷拘束で懲役5年が言い渡された。検事は3年を求刑したが、罪状が悪すぎて5年になったのだ。そして、政権が変わった。しばらくしてロウソク集会が起ったが、その間に2審で執行猶予の判決が出た。集会で隠れてしまい、記事が1行も出なかった」と話した。孔氏は、公然と李明博(イ・ミョンバク)政府を批判しているが、1審と2審裁判は、いずれも李容勳(イ・ヨンフン)司法府下で行われた。裁判を受けた事件が起ったのも人権を強調した金大中(キム・デジュン)政権と盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権にかけた2000年から2004年の間のことだ。

宋平仁(ソン・ピョンイン)論説委員 pisong@donga.com