盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権がスタートした03年、全国各地で農民のデモが後を絶たなかった。同年2月、チリとの自由貿易協定(FTA)の合意文書に韓・チリ両国が公式に署名したことを受けて、農民たちが「国内の農家はみな潰れるだろう」と街頭に繰り出したのだ。
政府は、FTAの経済的効果をアピールして反対世論の沈静化に乗り出した。農民をなだめるため、ブドウやモモ、キウイ施設(ビニールハウス)農家に対して、廃業支援金制度という破格の支援策もまとめた。韓チリFTA批准案が国会で可決されるまでには、1年という時間がかかった。
韓国初のFTAだった韓チリFTAが、来月1日付で発効から10年を迎える。韓チリFTAは、韓国が世界でFTA中心国(発効=9件、交渉妥結=2件)に生まれ変わる土台となったという前向きな評価を受けている。しかし、交渉や国会批准の過程で、大きな社会的費用を払わされた。
東亜(トンア)日報の取材チームが最近、国内最大のブドウ産地である慶尚北道金泉市 (キョンサンブクト・キムチョンシ)と忠清北道沃川郡 (チュンチョンブクト・オクチョングン)を訪れた。韓チリFTAの最大の被害者と言われいたブドウ農家が現状を確認するためだった。取材に応じた複数のブドウ農家は、「皆潰れるといわれたので、反対デモにも参加したけど、実際のところ、FTAによる被害はほとんどなかった」と口をそろえた。国内ブドウ農家の単位面積当たりの所得は、10年間で2倍に膨らんだ。
政府が04〜10年、国内のブドウやモモ、キウイ農家に支援した廃業支援金は計2400億ウォンに上る。廃業支援金として1600億ウォンが支給されたが、チリ産モモは、検疫問題のため、ただの1個も輸入されずにいる。廃業したブドウ農家も、同一作物栽培の制限期間である5年が経過すると、大半が再びブドウの木を植えた。誇張された被害予想のために無駄遣いをしたことになる。
FTA効果を巡る政府の予測が外れた部分もあった。当時、政府はFTA後、チリとの貿易収支が改善するだろうと見込んだが、消費財の輸出量より原材料輸入量のほうが急増し、赤字の幅は03年の5億4000万ドルから、昨年は22億ドルへと膨らんだ。
東亜日報は、韓国開発研究院(KDI)や対外経済政策研究院(KIEP)、現代(ヒョンデ)経済研究院、LG経済研究院など9つの政府出資研究機関や民間研究機関の専門家95人を対象にアンケートを行った。専門家らは、「韓米FTAなどに向けた予行練習」(34.8%)、「世界的自由貿易トレンドに合流したこと」(29.2%)などを、韓チリFTAの前向きな側面として取り上げた。否定的な面としては、「経済的効果がほとんどない」(42.0%)、「膨大な社会的対立費用の発生」(22.9%)などを指摘した。
現代経済研究院のチュ・ウォン首席研究員は、「利益団体の過度な口出しや間違った分析は、交渉そのものを不利に導き、きちんとした被害対策作りに悪影響を与えかねない」とし、「今後、韓中FTAなど、重要な対外交渉においても、韓チリFTAの10年間の教訓を必ず振り返らなければならない」と指摘した。